青年未満
MISSION-2 初陣 |
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神羅軍に入ってひと月、研修期間を終えたクラウドは第一軽装歩兵師団第一大隊の第一小隊に配属された。実戦で役に立つようなことはまだ殆ど教えられてもいないが、これでやっと兵士として認められる。
五つの大隊から構成される第一軽装歩兵師団は、その名の通り、小銃や長銃などで武装した一般兵と呼ばれる兵士の集団である。クラウドの第一大隊は十余名ほどの小隊が二十、他も同様で一大隊で二百名から二百五十名、一師団で二千名程度になる。ウータイ戦では何師団も出兵したこともあったが、今現在行われるミッションでは師団単位で出兵することは少なく、何小隊かの一般兵とソルジャーや重装部隊が組んで、百名程度の少数部隊編成で任務にあたることが多いようだった。
「お、一並びだな」
寮の部屋へ戻って配属の辞令を見せると、ザックスは縁起がいいと言う。
「縁起なんてかつぐ主義じゃなかったんだけどな、そういう勘ってのは馬鹿にできないぜ。イヤだなーって行く前から思うミッションはサイテーなもんになるし、イイぜって思った時はすんなりいったりするもんなんだ」
幸先がいいと思えば、クラウドも自然と笑みが浮かんだ。
「お?」
ザックスが腰を折ってクラウドの顔を覗き込む。
「お前、笑った方がイイ感じだぜ」
クラウドはニヤニヤと笑うザックスの顔を掌で押し退けて、自分のベッドに腰を下ろした。
もう休むという訳ではなく、ザックスを真似て就寝前のトレーニングをする。もうひと月近く続けていることだ。
本日付けで小隊に配属になり、初めて実戦で役立つような訓練が始まり、早速ミッドガル内の警備にも交替で借り出された。
平時の戦闘訓練はライフル射撃や持ち運びのできる火器の取り扱い、それに野戦シミュレーションが主である。射撃は性にあっているらしい。だが野戦訓練や体術は身体が小さい分、クラウドには不利だった。
整列するとそこだけぴょこんとクラウドが小さい。どの訓練の教官もクラウドに一番に目をつけ、必ず『もっと喰え』と云う。しかしどちらかといえば、クラウドは大食の方なのだ。
だから後は人一倍努力するしかない。
硬いベッドの上で腕立て伏せを始めたクラウドへ、ザックスが言った。
「お前、ちっこいの気にするより、自分の長所を生かせよ。小回り利くんなら瞬発力で勝負しろ」
「瞬発力…ってどうやって鍛えるもんなんだ?」
真面目に問うクラウドへ苦笑が返った。
「お前ってさ、努力家っていうより自虐趣味だろ」
「そんなんじゃない」
「瞬発力は走るだけだって鍛えられるだろうけど…そうだな、どっちかっていうとイメージトレーニング?」
「どうやるんだ、それ」
「剣、使った方が効果的に鍛えられれんだけどなあ」
独り言のように洩らす彼をクラウドはじっと見つめた。咽喉元まで出た言葉を飲み込んで、目で訴える。
視線が合うとザックスはにやりと笑う。
「やりてえか?」
「…やりたい」
「どうして欲しい」
「教えて…教えてください」
「よっしゃ。お兄ちゃんの特別授業だ」
それからというものクラウドの訓練が終わり、ザックスと二人で夕食を済ませると、自主訓練用の演習場に出掛けるようになった。
基地の室内演習場は二十四時間、治安維持部隊所属の兵士であれば誰でも使用できる。ザックスがミッションに出かけて不在の時以外は、二日に一度という頻度で、クラウドはそこに通った。
任務がない場合自由に過ごせるソルジャーと違い、一般兵は日中の殆どを、訓練と兵法などの講義を受けて過ごす。
まだ訓練にも慣れていないクラウドは、恐らく一番疲労が激しい。
だが一般兵の訓練では剣は使わない。
剣を使うのは接近戦に於いてその威力を最大限に発揮するソルジャーだけだ。だからこそ、この機会はクラウドにとって貴重だった。
「お前が頑張ってるのに、オレもおちおちしてらんねーからな」
そう言って、ザックスも自分の時間を使っているのに嫌だとは一度も言わない。最初の頃遠慮がちにしていたクラウドを、むしろザックスの方が誘った。頼み難いクラウドの立場を彼は察してくれたのだ。
数日経てば、ザックスが本当に疲れている時は例え食事中でも寝てしまうということに気付いて、頼むタイミングも計れるようになってきた。
「お前の場合、相手よりも先手を取らないと駄目だよな。でも軽い剣ばっかり使ってると筋力もつかないし、リーチの差が不利になっちまう」
クラウドは結局ザックスが使う剣と同等の長さの、もう少し細身のものを選んだ。力の弱さをある程度は剣自体の重さでカバーすることが出来る。
そして疲労に嘆く身体に鞭打って、剣の握り方から指導を受けた。足の運び方、視野の取り方など、剣術は剣を振るだけではないと知らされた。
「足がもたついてんぞ。剣より先に足を動かせ」
「腕を振り回すな。身体で動け」
決して楽な訓練ではない。いつもクラウドに優しいザックスもこの時ばかりはきつい一言を浴びせた。
それでもどの訓練よりクラウドはそれを楽しんでいた。集中力が半端でないからか、クラウドは飲み込みも早かった。
そして一日おきのペースで現れ、めきめきと力をつけるクラウドは、この二、三ヶ月の内に訓練場の名物になっていた。
そもそも一般兵は日中散々しごかれるため、定時以降に自主訓練をする者など皆無に等しい。必然的に自主訓練場はソルジャーばかりだった。そこへ一般兵、それも年若いクラウドが現れると一斉に注視を浴びた。
少年に自覚はなかったが、只でさえその『頭』は目立つのだ。
「おうチョコボ頭、頑張ってるな」
呼び名に不平を言いたいのはやまやまだったが、それがソルジャーであるということはクラウドにとって上官になる。ファーストならば上で中佐、最下位でも中尉だ。
掛かる声に悪意や敵意のない事が、せめてもの救いだとクラウドは思うことにした。何より無視されるよりは数倍いい。
それに時々ザックスとの練習に加わってくれるソルジャーもいた。クラウドも名前を覚え、勤務時間に顔を合わせると声をかけてくるほどの顔見知りも増えた。くだらない話をする休憩時間も楽しかった。
隊に配属される前にザックスが言っていたように、仲間と過ごす楽しさをクラウドも知るようになっていた。
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これまで市内警備が主だったクラウドにとって初陣、初めての遠征はグラスランドエリアのモンスター駆除だった。
この時ウータイとの戦争は休戦協定が結ばれていたが、まだ残党兵との小競り合いは続いており、その進路確保が目的だという。
狼型のモンスターなどはミッドガル近郊にも現れる。それくらいならば一部隊もいれば蹴散らしながら進軍も可能だ。
だがグラスランドエリアの沼地にはミドガルズオルムと呼ばれる巨大な蛇型のモンスターが生息していて、それに襲われたミスリル鉱の人夫や商隊の末路はよくニュースにもなっていた。
映像や新聞の写真は見たことがあるが、クラウドや他の新兵の殆どは、まだお目にかかったことはない。ザックス曰く『ドラゴン並みにしぶとい蛇』、退治しても後から後から現れてキリがないのだそうだ。
それでもまとめて倒せば暫くは安全だということで、進路確保でなくとも、年に一度程度は駆除隊が組まれるのが通例になっていた。
クラウドの所属する第一から第三小隊と、ザックス含むソルジャー三十名強から成るソルジャー部隊が出撃することになり、日程は五日間、隊長はなんとあのセフィロスだった。
不覚にもクラウドは緊張して、出発の前夜殆ど眠ることが出来なかった。
出発の朝のブリーフィングは三十分ほどで終了した。
ミドガルズオルム駆除といっても、それを相手にするのはソルジャーたちである。一般兵が使う銃器では大型のモンスターに殆どダメージを与えられない。ソルジャーが大物の相手をする間、周辺に出る小物のモンスターを叩けばいいのである。
ソルジャーたちは事前にレクチャーを受けているらしく、このブリーフィングはどちらかというとこれから出陣する兵への激励という訳だ。
副隊長を務めるソルジャーが沼地での移動スケジュールや野営ポイントなどの説明を終え、最後にセフィロスがその場に立った。
メディアで見かける彼の戦闘服姿を、クラウドはその日初めて間近で目にした。入寮の日に見た時は訓練用の剣だったが、今は本物の正宗を携えて。
「人を斬るばかりが兵の仕事ではない。モンスター相手では軍功が上がらぬと思い込んで力を惜しむな。己の職務を全うしろ」
こういった場合もっと延々と長い口上を述べるものだと思っていたが、彼の言葉は極短いものだった。
小隊長の声で兵士が一斉に敬礼すると、セフィロスも答えるように敬礼を返す。
クラウドは気付いた。
これこそがクラウドや、セフィロスに憧れて入隊した兵士たちの求める英雄像なのだ。
比率にして千分の一にも満たない、三十分ほどの間の数秒間。
つまりテレビ放映などを通して見ていた『英雄』の姿は、セフィロスという人物のたった千分の一。クラウドは、まるでそれが彼の全ての様に思っていた。
彼が何故クラウドへあんなに意地の悪い言葉を吐いたのか、それに絶望したクラウドの行為が、どれほど彼への横暴だったのか、漸く少し分かったような気がした。
英雄を求める気持ちが、セフィロスという男を他から切り離す。
ザックスをもって『半端じゃない』と言わしめる強さもまだ目にしてはいないが、多分今回のミッションは、彼をもう少しだけ知るチャンスになるだろうと、クラウドは思った。
移動の車の中で、元々それを苦手とするクラウドは、案の定乗り物酔いに襲われた。
初陣の不安がそれを助長しているようにも思えたが、クラウドにとってはモンスターよりもやっかいかもしれない。
一般兵三小隊とソルジャー一部隊が分乗したトラックは、ミッドガルからグラスランドエリアへの道をひた走っている。
かなりの距離があり、舗装もされていない荒地を進軍し、一日で現地へ到着しようというのだから、単純計算しても時速八十キロ近いスピードだ。荒地の起伏に反抗するかのように、トラックの荷台は舌を噛みそうなバウンドを繰り返していた。
昼食時の休憩で止まった時、クラウドは朝食も全て吐き戻してしまった。
胃は空っぽで激しい嘔吐感はないものの、眩暈のするような気分の悪さがだらだらと続き、そのストレスが何より辛い。
ぐったりと荷台の幌によりかかっていたクラウドへ、ザックスはミネラルウォーターのボトルを差し出してきた。
「おい、酔ったのか?」
実際一般兵の半分ほどは沈没していた。この揺れは乗り物に弱い人間でなくてもおかしくなる。
「吐きたい奴は後ろに行って出しちまえ。後続のトラックに反吐ひっ掛けてやれ」
ぐったりとした兵士達はザックスの言い様に微かな笑いを洩らした。同時に彼の言葉に従うかのように、荷台の後ろへ這っていく者もいた。
「蛇野郎より揺れの方が強敵だな」
他のソルジャーが苦笑まじりに呟いた。
「日が沈む前には着く。気張れよ」
気合でどうにかなるものなら、クラウドとてしている。だが既に文句をいう気力もなかった。
グラスランドエリアの中央に位置する、最初の野営ポイントに到着したのは夕刻、スケジュールどおり日が沈む直前だった。
その名の通り膝下丈の草原が延々と続く。時折貧弱な林が点在しているだけで、海と山地から吹く風が混ざり合い、竜巻などが発生することもある大平原だ。南東にチョコボ牧場があるというが、すぐに日が落ちてその姿を目にすることはできなかった。
クラウドの属する第一小隊から第三小隊の十数名の一般兵から成る。それぞれが二つのテントを張るため、ソルジャー部隊のそれも含めて十以上になった。
テントの設営から始まり、食事の準備や見張りと一般兵に休む暇はない。乗り物酔いや進軍の疲れもあるが、幸いクラウドはいつも地面に足をつけてしまえば、乗り物酔いの症状は治まった。未だ回復せず横たわった数名の兵士を横目に、クラウドは動き続けた。
仕事を終えて腰を下ろしたのは到着してから二時間近く経ったころ、配分された夕食のプレートを持って、皆が集まる焚き火の近くに座る場所を探していると、先に食事を始めていたザックスに手招きで呼ばれた。
「調子は」
「もう全然」
「お前のは精神的なやつかもしれねーな。揺れるより、狭いとことか嫌いだろ」
ザックスの隣に座り、クラウドは早速食事を開始する。昼食を抜いていたから正直死ぬほど空腹だったのだ。
猛烈な勢いで炊いた米をかきこむクラウドを見て、ザックスは笑いながら言った。
「ま、ある程度は慣れるさ。ソルジャーになっちまえば関係ないしな」
「どうしてソルジャーは大丈夫なんだ?」
「そりゃ肉体強化されてるからだろ。乗り物酔いだってしなくなるさ」
「ソルジャーになったら…って、その前に乗り物酔い体質が試験で引っかかったりするかな…?」
手を止めて、クラウドは不安をザックスへ問う。
ソルジャーになることを目的として神羅に入ったクラウドとしては、もしもそれが障害になるというなら死活問題だ。確かに乗り物酔いになるソルジャーなど、聞いたこともない。実際今回同じトラックに乗っていたソルジャーたちは、誰一人酔ってなどいなかった。
「うーん…」
ザックスは唸ってから、わからん、と一言答えた。
「ソルジャーの施術を受ければ、乗り物酔いなどしない」
代わりに答えた声に、ザックスとクラウドは合わせたように振り返った。
クラウドの目の前に黒いもの。見上げると長い銀髪が風に揺れ、一対の魔晄の瞳が彼を見下ろしていた。
突然現れたこと、そして声を掛けてきたことに驚くと同時に、クラウドは気付いた。彼の瞳の青緑色は、ザックスや他のソルジャーよりずっと鮮やかだ。
立ち上がって敬礼しようとしたクラウドの手をザックスが掴んでいた。強い力は立ち上がる必要はないと言いたいのだろう。仕方なく座ったままのクラウドを、セフィロスは見つめ返してきた。
「だがそれ以前の訓練や実戦で、それが弊害になることはある。三半規管に弱点があるのなら、乗り物酔い以前に平衡感覚に支障が出ることもある」
「さんはんきかん、ってなんだっけ?」
ザックスは食事を口へ運びながら聞いた。とても上官に対する態度ではないが、彼のそれには皆慣れているらしく、任務の真っ最中でもなければ咎める者はいない。セフィロスもそうだった。
「ザックス、お前は解剖学でやっただろう。側頭部にある、平衡感覚を制御する器官だ。それが弱いと乗り物酔いになる」
「あ、くるくる回った後に目が回るあれだな」
「つまりそれの良し悪しで戦闘においても差が生じるということだな」
「でも慣れるじゃないか」
ザックスが言い募るとセフィロスは口元を歪めて笑った。
決して明るくない笑いを、クラウドは彼のごく少ない表情の変化として目にする機会が多い思う。美形の彼がするととてもサマになるのだが、馬鹿にされているような気がしないでもない。
「慣れるということは、訓練できるということだ」
セフィロスはクラウドに向けて、はっきりそう告げた。
クラウドは夕食のプレートを脇へ置いて、今度こそ立ち上がると、上官に向けて敬礼した。
「ご助言ありがとうございます」
「ソルジャーの適正は単一器官の優劣を問うものではない。まずは兵士として知るべきことを学べ」
セフィロスはクラウドの左腕を顎で示した。
左腕の赤紫色の腕章は、クラウド以外に同行の小隊だけでも五名が着けている。今回が初陣の新兵の印だ。
「イエッサー」
真っ直ぐに見上げて答えたクラウドに、セフィロスはまたじっと見入るように視線を留めた。
「お前…どこかで会ったか」
「五ヶ月ほど前、サーに医務室まで運んでいただきました。あの時はお礼も言わず失礼いたしました」
「ああ」
入隊した日にいきなり倒れたクラウドのことは、さすがに思い出したようだ。それがクラウドであることはあまり知られていないが、実際兵士の間ではかなり噂が広がった事件だった。なんせ英雄と呼ばれる男が手ずから少年を抱え上げて運んだのだから。
「忘れてた」
「なんだよ。忘れてたのか」
ザックスは呆れて溜息などついているが、あんな事件でもなければただの一新兵を覚えている方が余程おかしいとクラウドは思う。
「こいつ、ソルジャーの間じゃ結構有名なんだぜ。射撃の腕もいいし、剣だけだったらサード張れるくらいにゃ使えるんだからな」
セフィロスは片方の眉を微かに上げた。
「ナイフはともかく、一般兵は剣など使わないだろう」
「オレが教えてる。自主練習場でみっちり」
「…なるほど。お前に教官の素質があるとはな」
上官は皮肉を込めて言ったのだろうが、当のザックスは照れ笑いなど洩らしている。
クラウドは不思議な気持ちでソルジャー二人を見ていた。
軍部内の位で言えばセフィロスは大将、ザックスは確かまだ中尉のはずだった。ソルジャーに於いてファースト、セカンド、サードといった違いはその戦闘力のランク付けにすぎない。一旅団を差配できるセフィロスとザックスは明らかに地位に差がある。そんな二人がこうやってやり取りできるということを、クラウドは奇異なものとして捉えていた。
その身長差からもどうしても仰向く仕草になってしまうクラウドを、セフィロスは再び見下ろしてきた。
「お前、所属と名前を云え」
「イエッサー。第一大隊第一小隊のクラウド・ストライフ三等兵です」
訓練で教えられたとおりの答え方で口にした名を、セフィロスは小さく唇を動かして繰り返した。
「水を刺すようだが訓練と実戦は違う。ストライフ、お前は人を殺したことなどあるまい」
「ありません」
「剣で戦うということは、お前の手で直接肉を断つということだ。早く慣れるんだな」
クラウドはどう返答していいのか分からず黙り込んだ。
事実、クラウドは人間を殺したことなどない。故郷で狩猟は盛んだったから猟銃くらいは持ったことはあるが、その標的はみな獣である。無論人を撃ったことはない。
肉を断つことに慣れろなど、どうするというのだ。まさか通り魔のように周囲の人間を切って回れという訳ではあるまい。
沈黙しているクラウドへザックスが助け船を出した。
「隊長、そんなこと今言ったってしょうがないだろ。あくまで訓練の話をしてるんだからさ」
「ああ」
「あんたも一度練習場へ来てみろよ。あんたのようなソルジャーになろうって、若モンが頑張ってる姿、見ておいて損はないぜ」
セフィロスは何も答えずにザックスをちらと見やってから、その場を立ち去った。
長い髪をなびかせて行く後姿を並んで見送り、クラウドはそれが本営のテントの中に消えてから漸く座った。
地面に置いてあった夕食のプレートを持ち上げ、緊張から逃れた安堵に溜息をつく。
「あいかわらずイヤなこと云う奴だな。気にすんなよ、クラウド」
「でも、ホントのことだ。オレのは訓練だけのことだもん。実戦で役に立つなんて思ってないよ」
「そんなのは経験積んでから悩めばいいんだよ。銃で撃とうが、剣を使おうが、どっちにしろ多少は悩むことになるんだ」
「…ザックスも悩んだんだ?」
「悩まない奴がいるならお目にかかりたいね。あいつはどうかしらないけどな。それにそんなこと、慣れなくたっていいんだよ」
食べ終わったプレートへフォークを投げ捨て、ザックスは舌打ちする。
「そんなのに慣れて、平然と出来るやつが糞野郎なんだ」
一夜明けたグラスランドエリアは、陽に輝く朝露に濡れた果てしない草原を遠くまで見渡せた。ミドガルズオルムが生息する湿地帯は思いのほか近い場所に広がっており、沼の深い部分だけ色が違って見えた。
普段は商隊が通る程度で、南にある寂れたチョコボ牧場以外、民家などは存在しない。そこに小規模とはいえ、軍人がテントを張り、黙々と自らの任務を果たす為に立ち働く光景は一種異様だ。
携帯食での朝食を済ませた兵士たちは、集合の時刻に本営前に集まりつつあった。
ミドガルズオルム駆除部隊は歩兵一個小隊と、一部隊を三つに分けたソルジャー十余名が組み、三地域に分けた各所へと赴くことになっていた。
現場司令官を兼ねた隊長のセフィロスと副隊長のソルジャーファースト一名、ほかに通信兵一名は本営に残る。もしも各隊の手に余るようなことがあれば、隊長と副隊長がバギーで現場に急行するということだ。
各隊は徒歩で兵を進めた。クラウドの属する第一小隊とソルジャーはミスリルマインと呼ばれる鉱山の近くが担当エリアで、本営からは一番遠い地域にあたるため、夜になっても本営には戻らず、食料などの物資を積んだバギーが同行し、鉱山のふもとで野営することになっていた。
小隊長の号令で隊列を組んだクラウドたちは出立した。
一般兵の前後に分かれて進むソルジャーの中にはザックスの姿もあった。思えばザックスと共に行動する仕事も、クラウドにとって今回が初めてのことだった。
まだ若い兵士も多い一般兵に比べ、ソルジャーは長く軍に所属する歴戦の者が多い。その中でザックスは今年二十で年少組になるが、身の丈も横幅も十分大人の身体で、他のソルジャーと比べても逞しいくらいだった。
クラウドだけでなく周囲の殆どが、おちゃらけた奴だと認識しているザックスでも、大剣を背負い、悠々と闊歩する姿は普段の様子とは随分違って見える。
セフィロスという英雄に憧れて入隊したクラウドだが、遥か雲の上の存在である彼よりも、今はザックスの方が等身大のソルジャーの姿をしているように思えた。
前方にそのザックスの背を追い、周囲に警戒しながら、クラウドたちはミスリルマインへ向けて進んでいる。
時折狼型のモンスターにも遭遇したが、隊列を乱さず、上官の合図に従って長銃を連射すれば、ソルジャーたちの手を煩わせることもなく、あっけないほど短時間で殲滅することができた。
第一小隊にはクラウドのほかにもう一人新兵がいた。二人とも慌てることなくモンスターに対峙していた。入隊してからの数ヶ月間、毎日の射撃練習で指に血豆を作り、地べたを這いずり回って訓練してきたのだから、その成果を発揮するなら今しかないのだ。
「ストライフ、いい腕だな」
昼食の休憩で小隊長に声を掛けられ、クラウドは黙って頷いたが嬉しさは隠せなかった。故郷で狩猟の腕を褒められるのとは違った嬉しさだ。
午前中の進軍では本来の目的であるミドガルズオルムに遭遇することはなかった。それを幸いというべきか、それとも本来ならば大量発生しているそれを一匹でも多く倒すべき作戦なのだから、不幸というべきなのだろうか。
「出てこないな」
クラウドのすぐ前を歩いていたザックスが呟く。
ソルジャーたちは対ミドガルズオルムのために体力を温存すべく、これまで遭遇したモンスターとの戦闘には一切加わっていなかった。それ故少々持て余し気味なのだろう。周囲に油断なく視線をめぐらせているものの、見渡せる限りの視界に、まだ奴らは現れていない。
「一度に数匹とか出てこなきゃいいんだけどな…」
「おいおい、怖いこというなよ」
ソルジャーたちは笑いながらそんな言葉を交わしていたが、小隊長や一等兵たちは青ざめていた。彼らは今までにもミドガルズオルムを見たことがあるらしい。
「あのデカぶつが複数出てきたら、俺たちはさっさと逃げるしかない」
小隊長が小声で周囲の部下に言う。
それだけ恐ろしいモンスターだということなのだ。
こういった時の悪い予感というのは当たるもので、それから半時もしない内に、沼から立ち上がるようにそれは現れた。
隊の先頭から五十メートルは離れているだろうに、頭をもたげたミドガルズオルムはすでに見上げるほどだ。蛇独特の断続的な息遣いがクラウドにも聞こえた。
ソルジャーたちが一斉に向かった。
小隊は隊列を変え、彼らが大蛇に対する間、周囲の警戒に当たる。
乾いて固い場所を選んで進んではいるが、周りに、沼地は入り組んだ地図のように、あちこちに点在している。新たに蛇が現れることもあるかもしれないのだ。小型のモンスターが乱入する可能性もある。
クラウドは銃の安全装置を解除して警戒態勢の中にいたが、どうしてもザックスの戦いぶりが気になった。顔だけを向け、そちらを見やる。
三人のソルジャーが同時に斬りかかっているところだった。
ザックスは剣を背にしたまま、両手を前へ掲げている。ザックスの髪型は離れていても良く目立つ。ただ突っ立っている訳ではなく、恐らく魔法の詠唱をしているのだろう。
その証拠に数秒後、彼の周囲に陽炎が立ち昇った。隣のソルジャーにも同様の現象が起こった。
ファイラ。中級の火炎魔法。
陽炎は中空の一点に集まって白っぽい光になり、首を揺らして威嚇する大蛇の額で弾ける。黄からオレンジ、そして赤く色を帯びて、大きな炎が上がった。
不思議で、同時に恐ろしい光景だった。
今は醜悪なモンスター相手だが、それを人間へ向けて放つことを考えると、クラウドは想像だけでも躊躇を覚えた。
新たに他のソルジャーが二発の炎を起こさせると、大蛇は力尽きて首を下げ、そこへ剣を抜いたザックスが飛びかかり、首の根元を一刀で断つ。同時に吹き上がった血飛沫を、ザックスをはじめソルジャーたちは器用に飛び退いて避ける。
一般兵から歓声が上がった。気付けばクラウドだけでなく、兵士たちは皆ソルジャーの戦いぶりに見惚れていた。
間を置かず小隊長の号令で、兵士たちはバギーに積んだ缶を手に大蛇の骸へ走る。一斗缶に入っているのは重油だった。
骸は燃やしてしまわないと他のモンスターたちの餌になる。血の匂いに誘われて他のモンスターが大挙して襲ってくることもある。
クラウドも缶を手に大蛇に近寄った。
首を断たれた蛇は強烈に生臭い匂いを発していた。毒があるという体液に触れないようにその骸に重油をかけてまわる。死骸は収縮してはいるが、全長三十メートルほどあるだろう。
もう完全に死んでいるとは分かっていても、起き上がって来はしないかと恐怖心が起こる。他の兵も同様の不安に襲われたのか、手早く作業を終え、空の缶を手に再びバギーの近くへ集合した。
ソルジャーの一人が進み出て、ファイアと短く慣れた調子で呟くと同時に、大蛇の身体に火柱と轟音が上がった。
生臭さを忘れさせる、重油の燃える匂いに顔をしかめ、小隊は隊列を組みなおす。再び進軍を開始するころには、大蛇はすっかり炭化して表面を黒くしていた。
漸く起き上がってくる不安から逃れ、兵士たちはこっそり溜息をつく。
だがそれは先頭に立つのソルジャーの悲鳴に打ち消された。
何事かと一斉に顔を向けた兵士達の視界に、黒々とした影のようなものがあった。
距離は数百メートルほど先。蠢いて形を変えるものにクラウドは音を立てて唾液を飲み込んだ。
「蛇野郎だ。三匹」
悪い予感は的中した。
小隊長の警戒の号令は、情けないほど裏返っていたが、それを笑える者は誰一人いなかった。
さすがに三匹を同時に相手にするとソルジャーたちも必死だった。クラウドたちも数名の見張りを残して離れた位置から援護射撃に加わるが、五ミリ程度の弾丸では大蛇の身体はびくともしない。装甲のように固い鱗に弾き返されてしまうのだ。
下手に撃つとソルジャーたちに流れ弾が当たりかねない。掃射をやめて目を狙うが、動き回る蛇のもたげた頭の、わずか五センチの的を狙うのは酷く難しいものだった。クラウドも手に滲む冷や汗を袖で拭きながら、断続的に長銃を撃った。
ソルジャーたちは銃弾に援護されながら一匹ずつに標的を絞って、確実にダメージを与えていった。
残すはあと一匹という時に、首を振って威嚇音を発していたそれが、大きく口を開け、毒液を前方のソルジャーたちへ吐きつけた。
三名のソルジャーが毒液を正面から受け、地面へ倒れ伏した。
兵士達があっと声を上げる間に隊列から走り出たザックスが、皆の想像を越える力で跳躍し、大蛇の顔面を大剣で切りつける。
血を撒き散らし、大蛇は先に倒れた同族の骸の上へどうと音を立てて倒れた。
三人のソルジャーがとどめの剣を突き刺すが、今回は誰もが歓声を上げる余裕を失っていた。
「この糞ヤローが!」
ザックスが八つ当たり気味に絶命した大蛇の背を蹴った。
あとは荒く乱れた息を整える音と、毒を受けたソルジャーのうめき声だけが風に乗る。
「洒落になんねーよ。悪い予感ばっかり当たりやがる」
ソルジャーの一人の呟きに、彼らは一様に地面へ座り込んだ。
兵士たちは再び重油の缶を持って走り回り、血清を持って負傷者へ駆け寄った。大蛇の骸は手際よく焼かれ、傷を受けたソルジャーの手当てもあらかた済んだとほっと息をついたころ、クラウドは嫌な気配を感じて視線を巡らせる。
まさかと思いたかったが、視界にあるものに変更は効かないようだった。
「来た! 十時方向、四体!」
叫んだクラウドの先に再び四体のミドガルズオルム。
「マジかよ…」
すぐ脇に立って呟いたザックスだけでなく、小隊の皆が驚愕の表情で一瞬身体を強張らせた。
「どうして複数で現れるんだ。あいつらは群れで行動する連中じゃないってーのに」
クラウドはザックスの顔を見上げた。
彼は唇を噛み締め、少しの間考える顔になり、よく通る大声を張り上げる。
「小隊長! 本営へ連絡だ。英雄にお出まし願うぞ!」
「頼む、隊長。マジでシャレんなんねーよ」
指定の周波数に合わせた無線機に向かって叫ぶのはザックスだ。相手は勿論本営にいる隊長の英雄セフィロス、のはずである。
「あんたに張り合ったのは確かにオレだよ。でもあんなに大量に出るとは思わなかったんだよー」
クラウドの位置では無線機から漏れるセフィロスの声は聞こえない。何せ三十名ほどが小走りで進行し、大声で叫ぶザックスは走るバギーの上にいる。
立て続けに現れた四体はなんとか倒すことができたが、続々と現れてくる気配に骸を燃やす猶予はなかった。その死骸に誘われて、必ず他の仲間がやってくるとソルジャーや一等兵たちが口々に言ったのだ。先刻から隊は逃げるように進軍を続けながら、バギーに乗せた無線機で本営に連絡を取っているという訳である。
だが無線機の前で怒鳴るザックスの言葉は、とても上官に対して援軍を求めるものには聞こえなかった。
その様子を兵士たちは横目でちらちらと伺いながら、黙々と足を運んでいる。
初陣から、完全武装の装備を着けて、こんなに足場の悪い湿地帯を走る羽目になるとは運が悪い。だが数ヶ月前には一時間程度の日射にもふらついていたクラウドが、不思議と疲れを感じていない。それが戦場の緊張と昂揚によるものなのか、それともこれまでの訓練で体力がついたのか判断がつかない。両方かもしれない。
隣を走る新兵も息は上がっているが、苦しそうには見えない。
皆緊張しているのだ。
「とにかくこれ以上は無理だ。隊長がくるまで一旦ミスリルマインのふもとまで急行する。あそこなら沼から離れているし、場合によっては坑道へ逃げ込めるからな。いいだろ、了解してくれ」
真面目な口調で告げたザックスに、無線機の向こうの隊長は部下の進言を漸く許可したようだ。無線を切った小隊長とザックスがバギーから飛び降りてきた。
「来るってよ」
クラウドの隣に来て同じ速度で進みながら、ザックスが呟いた。
「なんで揉めてたんだ?」
問い掛けたクラウドへザックスは苦笑する。
「あの人、余裕綽々で笑っていやがった」
「ザックスの態度が悪いから怒ったんだろ」
「違うよ、からかってんだよ。出発前にオレがあの人へ持ち掛けたんだから、自業自得だけどな」
「持ちかけたって…何を」
「どっちが多く蛇野郎を倒せるかってな」
クラウドは正直絶句した。
今回クラウドの隊にいるソルジャーの中で、ザックスは確かに最も腕がたつ。それはこれまでの戦いぶりからも分かることだ。なんせ、三度目に遭遇した四体のうち二体は、ザックス一人で倒したようなものだった。
だがそれと、『神羅の英雄』の名を持つ人物と張り合うことは話が別である。
援軍を呼ぶとは言うが、実際やってくるのはセフィロス一人。つまり彼がくれば大抵のことは何とかなるということだ。彼一人の存在で勝敗が決まるというのは、春に休戦したウータイ戦線でも云われてきた。だからこそ『英雄』なのだ。
「…呆れた」
「ま、ちょっと無謀な賭けだったよな」
「ちょっとじゃないよ。それでご機嫌そこねて、サーセフィロスが来てくれなかったらオレたちが危ないんだろ」
声を小さくして云うクラウドを見下ろして、ザックスは白い歯を見せて笑う。
「大丈夫だって。賭けに乗るくらいは洒落も分かるし、こういう時に私情で嫌がらせしたりする人じゃねえもん。からかわれてるだけだ。おかげでオレも小隊長も落ち着いたしな」
ザックスが顎で示した先を見やると、第一小隊隊長は時折部下たちを励ましながら、速度は一定に保って隊列の先頭にいる。
「さっきは相当慌ててた。だからオレが無線代わったんだ。その気配を察して、わざわざあんな態度で相手したんだ。あの人」
クラウドは直接聞いた訳ではないが、なぜかその口調や態度までが想像できた。
本営の無線機の前で悠々とした口調でザックスをからかいながら、クラウドの隊の位置を確認し、無線機を切るやバギーに飛び乗ったのだろう。
それはクラウドの持つ英雄像とかけ離れたものではない。だがそう信じられる気がする。
「隊長が駆けつけてくれるんだ! それまで隊の意地をかけて、負傷者一人だすんじゃないぞ!」
先を行く小隊長が大声で激励を飛ばす。
クラウドは変わらず小走りを続けながら、ザックスを見上げた。
「な? お前もここでへたれるなよ」
逃げるような早足で一時間ほど進むといつのまにかミスリルマインが仰向くほど近くにあった。
野営のできる乾いた地面もすぐそこに見える。そこへ辿り付けば、沼地でしか生息できないミドガルズオルムも襲ってくることは出来ないというのに、それを阻むものがある。
「全く異常にもほどがあるぜ。群れないはずの蛇野郎がなんだってこんな大量発生してるっていうんだ」
ザックスの呟きを聞き取ることは出来たが、クラウドは長銃のグリップを汗ばんだ手で掴み、それから目を離すことが出来なかった。
平安の地とも思える場所と隊の間に、再び数体のミドガルズオルムがとぐろを巻いていた。じりじりと距離を狭めてくるかと思えば離れ、身体を丸めて伸び上がってては威嚇音を発し、それだけで精神的な疲れを覚える。
「五、いや六体いる」
「小隊の逃げ場確保が先決だな」
ソルジャー十名と小隊長が話し合っている脇で、兵士らは長銃を構えて緊張していた。六体もの大蛇と兵士が混戦になったら非常に危険だ。それも十一名いる兵士の内二名は新兵である。
「威嚇射撃、用意。隊列を崩さず、北側から回りこんで湿地から抜ける」
小隊長がはっきりとした声で指示を飛ばしてきた。
「倒そうと思うな。沼地の近くじゃ逃げ場がねえ。道を確保して小隊を先に通せ。八つ裂きにするのはそれからだ!」
ザックスも大声でソルジャーたちを叱咤すると、クラウドの横を走り抜けて行った。
疾風というのが相応しい速度に、頼もしさを感じる。
「前進! 隊列を乱すな!」
小隊長に続いてクラウドら兵士も、安全装置を解除した長銃を構えて歩き出した。
ぞろぞろと蠢く大蛇と一定の距離を保ち、北側の沼地に踏み込む。これまでは危険であるし速度が落ちるので、固い地面を進軍してきたが、今は場所を選んで歩く余裕はない。
重い泥がクラウドたちの足を捕る。
戦闘服の裾が温い泥水を吸い、まるで水田を歩いているような気にさせた。
足元と大蛇の群を交互に見やりながら、じりじりと移動する。
「よし、行けるぞ」
小隊長の励ます声と、果敢に大蛇に突きかかっていくソルジャーの姿に励まされて、兵士達も油断なく、怖気ることなく進んだ。
だが今回の第一小隊は限りなく運が悪かった。
沼地へ踏み込んだ時点で予測するべきだったかもしれないが、一帯の沼に比べれば水たまりのようなそこに、新たな敵が潜んでいようとはこの状況で誰が思っただろうか。
「出た!」
叫んだ先頭の一等兵が、同時に沼の中に尻餅をついた。助け起こす隣の兵士から僅か数メートルの位置に、それは泥を含んだ水を撒き散らし、長い巨体を起こした。
今まで遭遇したミドガルズオルムよりは少々小さいが、それでも二十メートルはあるだろう。ぬらぬらと光る鱗は濁った緑色で、所々に黒と黄の模様がある。模様を見てとれるほど近くで半身を持ち上げ、隊の頭上から威嚇音を吐きつけた。
ソルジャーたちは皆、群の方と既に混戦になり、こちらに気付いた様子もない。
「隊列を保て! 目を狙うんだ!」
小隊長の指示で、驚愕から返った兵士たちは銃口を上げた。
「撃て!」
バチバチと水面を叩くような音と、火薬の匂いがクラウドを奮い立たせた。少なくとも目を潰せば、倒すことは無理でも撃退することは出来る。
クラウドは長銃を下ろしてホルスターから抜いた小銃を構え、集中した。これまでよりも近い分狙い易いはずだった。
息が止まる。銃身の先に視界が狭まる。
トリガーを引き絞ったのと同時に、目の前の大蛇が高い咆哮を上げ、仰け反った。
「やった!」
隣の一等兵がクラウドの方へ叫んだ。
構えた銃から目を離して見やると、大蛇は片目から赤い体液を撒き散らし、湿地の上をのたくっている。
命中した。
喜びもつかの間、片目を潰され苦痛に怒り狂った大蛇は、太い、木の幹ほどもある尾をくねらせて、クラウドの前方にいる兵士をなぎ払った。足元をすくわれて倒れた彼らは身体を転がせて退こうとするが、続いて振り下ろされる強烈な尾を上肢に受け、二名が昏倒する。後列の兵士が威嚇射撃を行い、倒れた二名を引きずって逃れる。
見事なチームワークだった。
だがクラウドは、身を潜めるものも無い場所で残る片目を狙う羽目になった。
我を忘れたようにめちゃくちゃに尾を振り上げる大蛇は、現れた時よりも動きが速く、皮肉にもクラウドはなかなかトリガーを引くタイミングが掴めない。
「ストライフ! 無理するな!」
小隊長が叫んだと同時に発射した弾丸は、ミドガルズオルムの潰れた鼻柱に着弾した。
舌打ちして小銃を下ろしたクラウドは、視界の端に自分に向かってくる大蛇の尾を捉えて咄嗟に逆方向へと転がった。湿地の柔らかい地面はクラウドの身体をさして痛みもなく受け止めたが、起き上がりかけたふくらはぎを、鞭に打ちつけられたような衝撃が襲った。
「ストライフ!」
小隊長の声を合図に今度は横へ身体を転がす。小銃が手から離れ、その場に取り残された。
一瞬前に自分の身体があった場所に、大蛇の巨大な口先が突き立った。
ざあっと音が立つような勢いで血の気が引く。
数秒遅ければ、毒牙を頭部や上肢に受けていただろう。強酸性の毒は、急所に近い場所に受ければ即死することもあるのだ。
獲物を逃した大蛇は威嚇音を発しながら頭部を持ち上げ、側面から掃射される兵士らの銃撃にはまるで頓着なく、確実にクラウドに狙いを定めていた。
目前に迫った死の恐怖は、まだ兵士として日も浅いクラウドから冷静な判断力を奪い、硬直させた。
悲鳴は出なかった。乾き、張り付いた口腔の隙間から空気だけが洩れた。
目を閉じたいと思ったがそれも叶わなかった。長い時間に感じたが、それはほんの数秒の出来事だったに違いない。
クラウドの視界の端を黒いものが掠めた。
白い軌跡を残し、倒れるクラウドと大蛇の間に入り込み、槍のように長い刀を逆手に持ち替えて、上へ跳躍する。
重い音を立てて、大蛇の頭部は地面へ落下し、白っぽい泥水を跳ね上げた。一方それを追って着地した人物は、まるで翼を持つかのように優雅で、沼地も僅かな水音を立てただけだった。
太刀を振って血糊を払い、髪をなびかせて振り返る。
その顔はなんの表情も浮かべていない。翠の魔晄の目で、静かにクラウドを見下ろした。
「セフィロス…」
死から逃れた安堵よりも、劇的な英雄の登場への驚きよりも、クラウドはたった一太刀であの巨大な蛇の首を切り払った男に、愕然とした。
ザックスが桁違いだと言った強さ、クラウドや他の兵士たちが目指す彼の強さを目の当たりにして、起き上がろうと泥の上についた腕が震える。
数秒、クラウドの様子を見下ろしたセフィロスは、小さく唇を動かして何かを呟いた。自分へ何か告げたと思ったクラウドだが、漸く聞き取れるかというようなそれは、魔法の詠唱だった。詠唱を続けながら、英雄の登場に歓喜する兵士の声も無視してセフィロスは身を翻し、まだ数体のミドガルズオルムと戦うソルジャーへ走り出した。
その速度も速い。とてもぬかるみの中とは思えない足運びだった。
瞬く間に彼らの元へ参じたセフィロスは、彼らの後ろへ立ちはだかり、叫んだ。
「退け!」
突然の上官の登場にソルジャーたちは驚いた表情を浮かべたが、太刀の刃先を下ろして左の掌を翳すその姿に、慌てて大蛇たちから離れていく。
セフィロスは彼らが十分に離れたか離れないかの内に、正面へ翳していた手を上空へ挙げた。
「魔法だ」
その動作を見てクラウドの横に立つ小隊長が呟いた。
鈴を鳴らすようなちりちりという音と同時に、白い光がセフィロスの前方へ集結する。強烈な魔力を前にして、まだ四体残る大蛇たちが一斉にたじろぐのが、離れて立つクラウドからも見て取れた。次の瞬間光が走って、木の幹を折るような音が響き、大蛇たちは硬直した。正面から最大級の冷気魔法を受けて完全に凍りついたのだ。
数秒の静寂の後、四体のミドガルズオルムは粉々に砕け散った。
骨の欠片も、肉片の一つも残さず。
ソルジャーらが歓声を上げるのに反して、離れた場所に立つ一般兵たちは声を失っていた。
小型の一体にあわや壊滅という危機に見舞われた一個小隊に対し、一瞬で四体を消し去った英雄は、平然と部下たちと言葉を交わしている。
命を救われた嬉しさよりも、人ならざる強大な力には純粋な恐怖と、彼を敵にまわさずにいる安堵しか感じなかった。
ソルジャーたちに状況の説明を受けていたのだろうセフィロスは、暫くすると立ち尽くす小隊の方へ戻ってきた。彼の長身が、いつもより威圧感を増しているように見えるのは、兵士らの気分の問題なのだろうが。
「小隊長、怪我人は?」
「…は! 軽傷の者が二名のみです!」
小隊長がいち早く我に返って敬礼すると、兵士たちが追随した。クラウドも銃を下ろしてそれに倣った。
「整列!」
小隊長の掛け声で、怪我人の処置をしている衛生兵を残して小走りで集合する。クラウドの打たれたふくらはぎはその動きでずきずきと痛んだが、歩けないほどではないし、せいぜい打ち身くらいだろう。
しかし一瞬顔をしかめたクラウドを、セフィロスは見逃さなかったらしい。
「お前、怪我をしているな」
目の前に立つ上官の顔はいつもとなんら変わりはない。
恐ろしいほどの力の持ち主ではあるが、クラウドは彼に会ってから数ヶ月の内に、彼がなんの理由もなく他人を虐げるような人物でないのは理解出来ていた。
「たいしたことはありません」
真っ直ぐに見上げて敬礼するクラウドを、セフィロスは静かに見下ろして来た。
返り血一つも、泥水一滴も受けていない顔は、ミドガルズオルム数体を倒したとは思えないほど美しく、造作に一糸の乱れもない。
これほど完璧な存在を、クラウドは彼以外に見たことがない。
野に咲く艶やかな花や荘厳な山の峰よりも完璧で、度を越した姿は一種の不自然さすら感じる。
世界を作った神がいれば、こんな風なのだろうか。
「日が沈む前にミスリルマインのふもとで野営の準備を終えろ。また大群が出ないとも限らない。オレもここに留まる。通信兵、本営に連絡を」
セフィロスは顔を上げて指示を飛ばし、他にならって移動を始めようとしたクラウドへ続けた。
「お前。ストライフと言ったか」
「イエッサー」
「バギーの講習は受けたな。オレの乗ってきたあれをキャンプまで移動させろ」
セフィロスが指差した方を見ると、百メートルほど離れた場所に赤いバギーが乗り捨ててあった。彼が本営から移動する際に使用したのだろう。小隊が物資を積んだバギーよりもひと廻り小型のものだ。
ザックスが本営へ応援の連絡をしてから一時間強、徒歩よりずっと早いとはいえ、限界スピードで飛ばして来なければ小隊に追いつくことは出来なかったはずだ。
「イエッサー」
まだ先程の興奮が冷めない。そして痛む足を奮い起こして任務を果たそうとしたクラウドを、セフィロスはもう一度呼び止めた。
「その前に足を出せ」
言葉の意味は理解し難く、クラウドは思わず首を傾げていた。
その様子が子供っぽいものだったからか、セフィロスは口元に薄い笑みを浮かべ、クラウドが大蛇の尾に打たれた左足を顎で示した。
「魔法で治してやる。ブーツを脱いで裾をまくれ」
「あの…」
「見ていたぞ。果敢だが無謀だったな」
逆らうこともできず、クラウドは手早く軍用ブーツの紐を解いて、中へ収めていた服の裾を引きずり出した。ずきずきと痛む右のふくらはぎは、大蛇の尾で打たれた形に赤く腫れ上がっていた。
「骨までは、いってないな」
「はい」
セフィロスはコートの中に手を差し入れ、ベルトに取り付けたポケットから、黄緑色に光るマテリアを一つ取り出した。
しゃがみこむクラウドの前に、セフィロスまでが膝を折って座った。それでもまだ見上げる位置の上官は、今もその感情が殆ど伺えない冷淡な表情だった。
攻撃魔法と違って、回復魔法はそのエネルギーの変化を視認できない。ただセフィロスが手を翳した患部のあたりの産毛が、ちりちりと焦げるような感覚を受ける。赤く腫れ上がっていた患部は、青っぽく色を変え、さらに肌より少し黄色い染みのような跡になった頃、痛みは完全に引いていた。
まさに奇跡だった。
自然治癒するまで放っておいたら、少なくとも一週間くらいは時間を必要としただろう。
「跡も二三日で消える」
「あ、ありがとうございます。あの…」
「お前は戦力になる。向こうの傷を負った兵士は、今日明日はもう戦力にならない。その分お前が働け」
身を引いた彼は、抑揚のない動作で立ち去った。
慌てて立ち上がり、その背を見送る。
クラウドには彼が分かるようで分からなかった。せめて表情が少しでも変化するのならば、彼の気持ちを量ることができるような気がする。それはどうも期待できそうにない。
一時は、己の憧憬する像とは異なるセフィロスに、反感のようなものさえ感じていたクラウドだったが、彼を理解したいと思い始めていた。
他人をそんな風に感じるのは、母親以外には故郷の幼馴染み、それとザックスを入れて三人目だった。
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クラウドにとってはこのミドガルズオルム駆除の遠征が初陣、つまり訓練以外での野営も初めてである。
五名程度が雑魚寝するテントは狭く、熱気が篭って酷く暑かった。ミッドガル近郊で野営訓練は経験したことがあるが、年もまちまちな小隊の仲間たちの中には強烈な鼾の持ち主もいて、正直クラウドは昨夜も今夜同様殆ど眠ることが出来なかった。昼間の、モンスターとの実戦からくる興奮が、まだ冷めないこともあっただろう。
交替で行う夜警任務は新兵に優遇されており、クラウドは最初のシフトで終えている。起床時間まで寝ていていいことになっているが、寝苦しさに耐え切れず、遂に身体を起こし、テントから這い出していた。
テントの外の空気はひんやりとして気持ちが良かった。寝袋を持ち出して眠った方が余程寝心地がよさそうだが、軍隊で勝手は許されない。クラウドは暫く外を歩くことにした。
念のため小銃が腰のホルスターにあることを確認してから、クラウドはテントの間を外側に向かって歩いた。時計の短針はまだ三時、起床まで二時間ある。
テントの密集する場所を抜け、月明かりのある平原を見渡す。夜になっても止まない風の音以外は、至って静かだ。
一番端のテントから百メートルほど離れた沼地の手前に岩を見つけ、クラウドはそれに腰掛けようと足を進めた。上面部が平らな岩は、クラウドが寝そべることができるような大きなものだった。高さは五十センチほどで、あつらえたかのような自然のベンチだ。
そこに座り十日目の月を見上げた。
月の根元には、ミスリルマインを抱える山脈が黒い影になって広がっている。
ミッドガルから一日の行程を離れただけで、空は澄み、月も星も良く見えた。故郷ほどではないにしろ、そんな風に夜空を見上げる機会がこの半年殆どなかったことに気付く。何もない故郷だと思っていたが、幼馴じみとも見上げた星空だけは自慢できるものかもしれない。
クラウドは大きく深呼吸して、平原へと視線を戻した。
その時、ようやく目の慣れてきた平原に人影のようなものを見た気がして、クラウドは目を凝らした。
最初はモンスターかと身構えたが、影形は人以外のものではありえない。中には人型のモンスターもいるというが、それはもっと北の果てに生息するものだ。
人影は草原にたたずみ、微動だにしない。あまり長いこと動かないのが不安になるほどだったが、その揺れる長い髪は見覚えのあるものだった。
「セフィロス」
クラウドはその者の名を、風に消える小さな声にしていた。
何をしているのだろうという疑問に答えるように、人影はゆっくりと長い太刀を抜いた。
流れるその刃が月の光に閃く。
素振りを兼ねた精神統一のようなものだと推測できたが、セフィロスと名刀の描き出すシルエットはまるで舞いを見ているような気分にさせた。
重心を低く保ち、構えては踏み出し、薙いでは止め、引く。
その刃が空に描く軌跡をクラウドは無心で見つめていた。
距離は五十メートルほど離れていて、月明かりに影のようにしか見えないのがもどかしい。無意識に気配を殺して、寝ている猛獣に近寄る気分で、クラウドはそろそろと彼に近づいていた。距離を縮め、身体の細部の動きが見て取れるようになったころ、セフィロスは一連の動作を終え、鈴の鳴るような音をさせて太刀を鞘へと収めた。
クラウドは慌ててその場に伏せ、息を殺した。見つかれば許可なくテントから離れたことを咎められる。
英雄と呼ばれる人物を誤魔化せるとは思っていなかったが、
「そこで何をしている。」
声はすぐ近くで囁かれるように良く響いた。セフィロスはまだ横顔を向けて立っていた。
「今出てこなければ不審人物として斬る」
クラウドはぞっと背筋を凍らせ、慌てて草の上に立ち上がり敬礼した。
ゆっくりと振り向いた長身の上官の両目は、魔晄の色に光って見えた。ソルジャーである証で、暗闇でも通常の人間の数倍の視力を持つという。
「何をしている」
敬礼した手を下ろして、しかしクラウドは上官の全身から発される明らかな怒気に竦み、口を開くことすら出来なかった。
「まさか巡回中ではあるまいな」
「違います、サー」
咽喉が瞬時に乾いて張り付き、自分でも驚くほど掠れた小さな声しか出なかった。
「ではテントで寝ている時間だろう。勝手に離れていいと思っているのか」
「申し訳ありません」
余りの恐ろしさに俯いたクラウドの視界に、音もなく近寄った彼の軍靴が見えた。数歩の距離に立つ彼からは、まだ不機嫌極まりない気配が漂っている。
「答えになっていない。何をしていたのかと聞いている」
問い質す声は厳しい。
軍隊は規律を重んじるが、それは下の者を卑下するからではなく、そうでなくてはいざという時に整然と軍兵自体を動かせないからだと、クラウドは教えられた。
ましてやセフィロスは普段数個師団を束ねる現場司令官を務めることもある。兵士の勝手な行動を許すはずはない。
「顔を上げろ」
「イエッサー」
弾かれたように顔を上げた。
見据える緑色の双眼に出会って、クラウドは硬直した。
「気配を殺すことに慣れていないな」
すぐ間近にある美しい顔が皮肉な笑みに歪む。
「知った気配でなければ、刺客か何かと間違えて斬るところだったぞ」
意味を理解してクラウドの背にどっと冷や汗が浮かぶ。本当に神羅の英雄を狙う刺客と間違われていたならば、既に斬り伏せられているところだった。
セフィロスはクラウドの返事を待つように、両腕を組み、じっとしていた。
「オレは…あの、眠れなくて外に出たら貴方が剣を振っていたので、それを見ていました」
「オレが太刀を振るうのが珍しいか」
セフィロスは低く押し込めた笑い声を洩らす。
「いえ…その、申し訳ありません」
腰を折った姿勢のまま、クラウドは目の前の二つの軍靴を見つめる。長い長い足だった。
「もし後ろからモンスターでも襲ってきたらどうするつもりだ。悲鳴を上げる間もなく喰われていたぞ」
確かに彼の動作に見惚れている間クラウドは完全に無防備で、後ろから忍び寄った蛇に食われていてもおかしくはない状態だった。刺客と間違われてセフィロスに一刀両断にされるのと、頭からモンスターに食われるのと、どちらもさして違いはないだろうが。
「顔を上げろ」
今度は従う前に、クラウドの顎にグローブに包まれた指がかかった。
引き上げられた顔を間近で見つめられ、恐ろしさと恥ずかしさで、以前のように頬が熱くなった。
「丸呑みにされて死体が残らなければ諦めもつくやもしれん。だが食い残された、お前のような子供の骸は見たいものではない。幾ら見慣れていてもな」
外気に冷えたグローブの革に顎を触れさせたまま、クラウドは唇を噛む。これまで半年近くの間、厳しい教官と苛酷な訓練にも泣かされたことはなかったのに、今は涙を堪えるのに必死だった。
クラウドにとって一番の畏敬の対象である彼に、こんな風に叱咤されるならば、まだ問答無用で頬を張られた方がましに思えた。
まるで心臓を掴まれて、揺さぶられているような苦しさがある。
「今回だけだぞ。二度はない。見逃したことも誰にも告げるな」
泣くまいと自分と戦っていたクラウドは、その言葉に恐る恐る瞬きした。セフィロスは苦笑するように眉を下げた。
「行け。巡回兵に見咎められるなよ」
クラウドは身に染み付いた反射運動で、何とか敬礼だけは忘れることなく果たしてから上官に背を向けた。
逃げ出すように小走りで、見咎められるなと注意されたことも忘れて一直線に、クラウドは自分のテントへ戻った。テントの中は相変わらず、複数の仲間たちの熱気と寝息と鼾が充満し、だがそれ以外は静かだった。
クラウドは自分の寝袋の上に腰を下ろし、少し上がった息をつく。
堪えきれなくなった涙が一筋、左目からだけ零れ落ちる。
寝袋に顔を伏せ、ごくごく小さな声で呟いた。
「絶対ソルジャーになる」
くぐもって自分の耳に届く独白を聞きながら、クラウドは唇を噛み締めた。
「いつか、あの人の隣に立ってやる」
ミスリルマインのふもとを本拠として、グラスランドエリアでの大蛇退治はそれから二日間続いた。だが、行動初日のような大群に遭遇することもなく、クラウドたち第一小隊とソルジャーたちは、以降たった四体のミドガルズオルムを倒しただけだった。
あの大群が発生した異常事態の原因を探るため、セフィロスと一部のソルジャーが調査にも出掛けたが、結局判明しなかったということだ。
それが本当に原因不明だったのか、それとも機密として扱われ、一般兵には知らせる事柄ではないと判断されたのか、クラウドには知る由もない。
遠征四日目午後、駆除部隊はミッドガルへ帰還した。
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青年未満mission2(了)
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