指の痕 |
階数ボタンを押したエレベーターは、反動も殆ど感じさせずに上がる。
このフラットは、つい先程まで男がいた神羅ビルよりも後に建てられているので、昇降機も新型だった。同じ会社が開発したものとはいえ、かなり動作に改良が加えられているということだろう。
しかも人が多く出入りする神羅ビルでは、途中の階で何度もエレベーターが止まり、男の顔を見ては社員らが同乗を躊躇した。公共物を占有しようなど男は考えたこともないが、他人は異なるイメージを持っているらしい。
ここでは他の階の住人と顔を合わせる機会は、ほぼ皆無である。
機内の電光掲示が最上階の二十四を示し、電子音と共に扉が開く。
この階には一つしかない部屋の、扉に設置したセキュリティシステムが警告灯を点滅させていた。室内に生体反応があることを示す。つまり、あの少年が在室しているということだ。
そもそも賊の侵入を警告するために組み込まれたシステムなので、いい加減、設定を変更する必要があるかもしれない。
開錠操作をして部屋へ入れば、扉から真っ直ぐに窺えるリビングの床に、ブーツが一揃い脱ぎ捨ててあった。使い込まれた神羅軍支給の革のブーツは、うす茶色の乾いた泥を張り付かせ、フローリングの床面に剥がれた土をまき散らしている。
靴の中身はどこへ行ったのだろうか。
中身の少年は寮生活の為か、こうして室内で靴を脱ぎ捨てる癖がある。
リビングのソファに姿はない。男は廊下のいつもの場所に刀を立てかけ、寝室へ向かった。だがベッドの上にも少年はいなかった。
僅かに感じた音と気配に誘われ、寝室とならぶバスルームの扉を窺う。
用をたしているなら鍵が掛かっているだろうが、ドアは指一本分ほどの隙間が空いていた。
音もなく扉を押し開け、室内に居た少年の姿を目にして、男は思わず呼びかけようとした口をつぐんだ。
バスルームは入って左手にドレッサーとシンク、右手にバスタブとシャワーブース、扉の影になる位置にトイレの便座がある。
もてあます広さのドレッサーの前にはスツールが据えられているが、そこに座り込んだ全裸の少年は、シンクの縁にのせた金髪の後頭部をこちらに向け、両手は己の前に。
小さな頭が揺れ、男からは見えない唇から乱れた呼吸が聞こえる。
足の間で自身のものを握りしめて動かす掌から、薄い桃色の先端がはみ出している。
丸めた背が時折震える様子に、男は思わず口元を笑みに歪めていた。
いつもどこか淡泊で、街の娘たちにも興味を示さず、多感な年頃のわりに男らしさに欠けると思っていたが、やはり彼も男である。
元々同性愛者ではなかった男は、そう思っても少年を愛らしいと思う自分に不思議な感慨を覚えていた。正直直ぐに飽きてしまうと思っていた小さな存在が、己の中で大きく場所を占め始めていることが、意外でもあった。
「んん」
夢中で自慰に耽る少年は、セックスの最中とは異なる呻きを上げる。
快感も露わな甘く掠れた声を聞いて、男は何かを発見したような気になった。
この少年は普段余り声を出さない。押し殺して、堪えきれずに漏れる吐息を気に入ってはいるが、半日弄び続けて意識をなくす寸前でもなければ、これほどあからさまな声は出さなかった。
添えていた左の腕をシンクについて、そこに顔を埋め直し、右手の動きが早くなる。腕の中でくぐもった語尾は、少女のもののように掠れて、すぐに間隔の短い切羽詰まった喘ぎに変わった。
裸の肩が大きく痙攣して、手の中に溢れさせたものが、白いタイルに落ちる。
男は、充足の息をつく少年の小さな背を見つめ続けた。
暫くして乱れた呼吸が落ちつき、漸く何かの気配を感じ取ったのか、少年が腕に埋めていた顔をこちらに向けた。
目が合い、瞬時に見開かれたその青い大きな瞳と、血を昇らせて赤く染まる頬を眺め降ろして、男は秘め事を覗き見てしまった少々の後ろめたさと、彼の顕著な反応に、複雑な表情を浮かべていた。
「うわあぁぁ」
セフィロスをしてもびっくりするような悲鳴を上げて、少年はいきなり立ちあがった。
目が衣服を探し、それよりもドレッサーの横に積まれたバスタオルの方が手近であることに気付き、掴み取ったそれで身体を隠そうとする。タオルが近くにあった陶器のハンドソープを巻き込んで、固いタイルに落下させた。
高い音を立てて容器が割れる。
飛び散った破片の上を、走って逃亡する少年の、脇の下に腕を差し込み拾うように抱き上げたが、その裸足の足の裏から破片と一緒に血が滴った。
「馬鹿者」
「……セフィロス」
バスタオルを握り締めたままの子供を、もう一度スツールの上に戻してから、セフィロスは彼の足を持ち上げた。
「破片が入っている。そこを動くなよ」
言い置いて立ち上がり、セフィロスはキッチンへ向った。
手をつけたこともなかった救急箱が食器棚の上部に入っているのを覚えていたので、それを取り、バスルームへ戻る途中、適当な室内履きをリビングから拾った。
バスルームに戻れば、少年は切れた足を床から離した状態で、バスタオルはしっかりと身体に巻きつけて、大人しくスツールに座っていた。顔は茹でたように真っ赤だ。
セフィロスは無言で彼の前にしゃがみこみ、救急箱と室内履きを床に置いて、もう一度足を持ち上げた。
左足の裏に、三箇所ほど破片がめり込んで血が流れている。真っ白に手入れされたタイルに滴るほどであるから、かなり深い。
救急箱を開け、未使用のピンセットを取り出し、それを使って容赦なく傷口から破片を引き出した。
「いっ!」
「当たり前だ」
取り去った破片を床に落とし、次の傷口の処理にかかると、視界の端で覗った少年は、紅潮した顔を隠すようにバスタオルの中に埋めていた。
「何を恥らっている? 自慰は悪いことでも、恥らうことでもない」
「何時から……見てたんだよ」
「途中から」
平然と答えて、同時に二つ目の破片を取り、もう一箇所は欠片が残っていないことを確認してからセフィロスは顔を上げた。
血のついたピンセットをシンクに放り投げ、
「動くなよ」
目の前に掲げた傷口を吸い上げた。
「痛っ! よせってば!」
頭を押しのけようとする手を無視して、三つの傷から細かい破片を吸い出し、傷口を舐め取る。
口腔に広がる血の思わぬ甘さに、セフィロスは我を忘れて舌で傷口を抉った。
痛みに震える掴んだ足首は細いが、筋張った感触や筋肉の形は紛れもない大人の男になりつつある。足の裏の表皮も連日の訓練で固くなっている。
慰みに足の指の間に舌を這わせ、柔らかい肉を堪能すれば、痛みとは異なる震えが掌に伝わった。
セフィロスが教え込んだ愛撫の感触を連想させるのか、少年は顕著に反応を返し、それが堪らなく楽しいことのように思える。
「いやだっ」
両手で頭を押しのけられて、セフィロスは漸く足を解放し、口内に溜まった血を破片と一緒にシンクへ吐き出す。
秘事を覗かれた恥辱と、傷の痛みと、新たに与えられた奇妙な愛撫に混乱しているのか、バスタオルに包まる少年は言葉もなく、唇を噛み締めて何かを堪えていた。
一旦抱き上げて、少年をバスタブの縁に座らせてからシャワーの蛇口をひねる。温い湯が出始めたシャワーヘッドをその手に握らせた。
「傷を抉られたくないなら、しっかり洗え」
逆らいもせず、石鹸を使って血を洗い流す少年を見下ろしながら、セフィロスは口腔に残る血の味と香りを味わっていた。
彼のそれをもっと啜ってみたい衝動が突き上げる。
無防備に目の前で動くうなじに指を伸べかけて、セフィロスはその手を握り締めた。
彼を殺してしまうつもりなのかと自問する。
だが、いつからか自分は、彼を守ってやりたいと思うようになっていたはずだった。無論そんなことは口にしないし、世間でいうような愛情が己に芽生えるとも思っていない。
だが戦場で敵を屠るように、刀でその身を斬り捨ててしまうことは、多分セフィロスには出来ない。それだけこの少年には愛着がある。その自覚はある。
同時に、まるで肉食獣のように彼の血を渇望する己を、無視することは難しかった。
欲望と戦う男を誘惑するかのように動く、白い背中から目を反らし、セフィロスはシンクに歩み寄り、蛇口をひねって出した水で口をすすいだ。
吐き出した水に僅かに混じる血を惜みながら、血の残ったピンセットの先端を見つめた。
────血が望めないなら、その肉を。
自分には、ずっと以前から普通の人間とは異なる凶暴性があると頭の端で考えながら、ピンセットを洗い、それを化粧台の上に置く。
化粧台の足元のタイルには、赤い雫が模様のように浮かんでいた。
振り返った先で少年は足を洗い終えて、シャワーを止めた。
シャワーのように、この噴き上げる欲望を止めてしまえればいいのにと、セフィロスは思い、その考えに自嘲した。
魔法で傷を癒してやることもできたが、セフィロスは室内履きをクラウドに押し付けて、彼をバスルームに放置したまま、リビングのソファに座り込んでいた。
暫くごそごそと何かしている気配がして、小一時間ほどしてから少年はバスローブを羽織り、自分で処置したらしい足を包帯で巻き、その足を室内履きに突っ込んでリビングにやってきた。
「バスルーム、掃除しといたから。あと…明日非番なんだ。泊まってっていい?」
答えるどころか頷きもしないセフィロスをどう思ったのか、クラウドは数秒男を見下ろし、それから背を向けてどこかへ消えた。
今、セフィロスは少年と目を合わせることを恐れている。
何かの弾みで、取り返しのつかないことをしてしまいそうだった。
このまま目を背け続けるべきなのか、それとも少年へ擬似的な何かを要求すべきなのだろうか。
擬似的な、と己の思い立った言葉を反芻していると、目の前のローテーブルにマグカップが置かれた。
少年は二つ手にしたカップの一つをセフィロスの前へ、向かい側の彼の定位置にもう片方を持って座り込む。カップからはコーヒーの香りが漂っていた。
いつもなら本を読むなりしているセフィロスが、ただ宙を見つめて黙っていることを、何か異変と感じているのだろう。
少年のぎこちない気遣いが微笑ましく、いじらしい。
以前であれば、独りの時間に他人の気配や、係わり合おうとする気遣いは、むしろ負担に思っていた。だからこそ、この部屋に他人を招きいれたことは殆どない。押しかけられたり、成り行きで立ち入らせることはあったが、この少年はそのどちらでもなく自分から引き入れた。
傍らにいるのが彼であれば、と、セフィロスは何時から思うようになったか、思い出せなかった。
少年はコーヒーを啜りながら、ソファの上に膝を抱え込み、時折男の様子を窺うようにしている。バスローブから覗く、白い足の片方に巻かれた包帯に目を留めて、セフィロスは強く抗い難かった凶暴な欲求から、漸く目を背けることが出来た。
自分の座るソファの隣を叩いて示し、クラウドを呼んだ。
カップを持ったまま素直に従う身体から、石鹸の香りが漂う。掃除をしたと言っていたが、ついでに風呂にでも入ったのだろう。
セフィロスがこれまで身体を求めた女達とは異なり、少年からは甘い香水や化粧の香料の匂いがしない。華奢ではあっても、ふんわりと脂肪に覆われたなだらかな曲線も、抱き締めたときに沈み込んでしまいそうな柔らかさもない。
代わりにあるのは、筋張った成長過程の長い手足と、こういった薄い石鹸の匂いくらいだ。
「足を出せ」
テーブルにカップを置いてから、少年は持ち上げた足をソファに乗せた。
包帯の上から手を這わせ、足裏に掌を当ててから口内で小さく魔法を詠唱すれば、近頃バングルに装備したままのマテリアが微かに光る。触れた場所が少し熱くなり、傷口の変化を感じたらしい少年が、目の前で包帯を解き始めた。
ガーゼを剥がした足裏は、赤い筋のような痕を残して、傷口は塞がったようである。
小さな足だ。
手を添えた足首は簡単にへし折ってしまえそうな印象で。
「治った。ありがとう」
「破片の上を裸足で歩けば、切れる。頭のいい行動じゃないな」
「ごめん。もしかして、怒ってた?」
「いや……」
手慰みに脛を撫でるが、少年は逃げずにされるままになっている。
「そういう訳じゃない」
「でもなんか、怒ってるみたいだった」
微かに首を傾げて見上げる少年の仕草に目を据えて、何の疑いも持たないその視線に、思わず苦笑が浮かんだ。
「血が」
「……血?」
「お前の血が、欲しくなった」
告げるつもりはなかった本音を呟き、だがクラウドは本気と取っていないのか吹き出して見せた。
「血って……あんた。吸血鬼?」
無邪気に笑うクラウドの顔を横目に、欲求を言葉にしたことで、自覚が膨れ上がった。
膝の上に投げ出された白い足が無防備で、足首を握る指に意識なく力を強める。
今の彼を、意のままにするのは簡単なことのように思えた。
「吸血鬼、か」
クラウドの言葉を復唱する男に不審を抱いて困惑の表情を浮かべた少年を、なるべく優しくソファに押し倒し、自分はソファから降りて床に膝をついた。
きっちり着込んだバスローブの襟元から伸びる、滑らかな首筋に視線を据える。
惑いながらも大人しく見上げているクラウドは、視線の止まる場所を意識するのか、全身を強張らせ、その緊張が二本の腕に添えたセフィロスの掌にも伝わった。
誘われる柔らかい肉に噛み付き、寸でのところで力を弱めて、歯でそこを辿る。皮膚のすぐ下に流れる管が、青く浮き上がる表面を撫でるように行き来させた。
「……逃げないのか」
予告してわざわざ警戒させるのはおかしな話だ。
だが逃げ惑う少年を狩るのは、また異なる快感を覚えそうだった。
「ホントに……吸うの、か?」
「今、その誘惑と戦っているんだが」
耳の下に口付けながら囁けば、僅かに身を竦ませる。
「負けたらオレは、けだもの並ということになる」
少年は逃げる素振りも見せず、しばらくじっと男を見上げ、突然目の前に左手を差し出した。
「指でいいなら。いいよ」
その提案に、セフィロスはどんな顔をしていたのか。
クラウドは微かに笑って男を見つめて、差し出した指先でセフィロスの唇を辿った。
「犬に噛まれたと思うから」
「オレは犬か」
「あんたは犬じゃないな。狼とか、うーん…鷲とか」
奇妙な物言いに気勢をそがれ、同時に、ずっと他人と異なる部分を感じていたセフィロスを、人間らしく引き止めているのは彼の存在なのだと気付いた。
だから、この少年を傍近くに置きたいと思ったのだろうか。
「……不思議だな」
クラウドは本気で男を動物に例えるつもりで、巡らせていたらしい意識をこちらに向けて、びっくりしたような顔になった。
「あんたが『不思議』なんて言うの、珍しいな」
見開いた大きな目は、小さな顔の大部分を占めているように見える。
「何が不思議なんだ?」
「お前が」
目元に舌を這わせて、慌てて閉じた瞼を舐め取る。
そのままこめかみに短く口付けてから、薄い色の唇への接吻に移った。
「いや。不思議なのはオレなのか」
恐らく他人の目には、セフィロスがこの子供の生き血を吸おうが犯そうが、変質的な行為と見なされる事に変わりはない。それでも、幾分でも自分を人間らしく振舞わせる少年には、本当の欲求は堪えておくべきだろう。
ローブの襟元から手を忍び込ませて、なだらかな胸をまさぐる。
「意味分かんないや」
「オレもわからん」
最初の頃と比べ、クラウドの身体はセフィロスに慣れた。多少無理な体位を強いたところで、恥らうことはあっても、痛みに飛び上がるような事はそうそうない。
肩を肘掛に預け、ソファへあお向けに横たわったセフィロスの腰に跨り、その中心から反り立つものを受け入れても、クラウドは陶然と目を閉じて揺さぶられるままだった。
火照った腹の上に、彼の陰嚢が冷たい感触で触れている。
腰を突き上げる度に揺れる前を、時折手の中で高めてやると、素直に喘いで身を捩る仕草がセフィロスを一層熱くした。
「自分で動いてみろ」
まるで部下に命じる口調で告げたが、少年はその意味を理解するのに少し時間を要した。
腰を支えて促してやると、暫くしてから頷き、セフィロスの腹に手をついておずおずと腰を揺らした。
訓練や実戦で鍛えられた腹は、近頃固く、形状がはっきりとわかるようになってきた。それが動く度にうねる様子は、そこだけ別の生き物が蠢いているようにも見える。
首筋から零れた汗の粒は、腹の溝を伝って臍まで流れ落ちる。臍の横に一つだけある、ごく小さな黒子が目を引いた。
夢中で動作を続ける少年は、処女のように只されるがままでなく、きちんと男の存在を意識して、受け入れた場所を時折強く締めつけてみたり、上下に動かしてみたりと余念がない。腹や胸に置いた手も、ぎこちない愛撫に止まることはなかった。
もう両手では足らないほど、こうして肌を合わせて、セフィロスは少年が紛れも無く己の情人なのだと意識した。
だがこれが『恋』なのかと疑いを持ってみても、判断材料は何も無く、ただ時折激しく彼を求める衝動があるだけで、それが単なる性欲ではないとは言い切れない。
少年はこれまで数回、セフィロスを『好きだ』と告げて来た。
セフィロスも好きか嫌いかを問われるなら、少年を好ましく思っているのは事実だったが、好ましい人物ならば彼以外にもいる。
日増しに逞しくなっていく腕を撫でさすりながら、冷静な思考から立ち返り、もう一度クラウドを見つめた。
「セフィロス…?」
喘ぎに嗄らした喉が訝しげに問い、動きを止める。
引き寄せた左手の指を口に含み、指の間に舌を這わせれば、それにさえ背を震わせる少年から目が離せなくなった。
柔らかい薬指の指先を執拗にしゃぶり、クラウドの表情を眺めながらそこに歯を立てた。
「いっ!」
痛みに歪めた顔に目を据えたまま、腰に乗った身体を突き上げる。
流れ出した血が舌に触れる。
血液は塩分と鉄の匂いがするが、セフィロスの舌には甘露の味わいだった。
逃がさぬよう歯で指の根元を捕らえたまま、渇きに湧き上がった唾液と一緒に強く吸い上げ、噛み切った傷口を舌で抉るように舐めた。
己を包み込む熱い内部がぎゅっと締まり、それでもクラウドはセフィロスの口から指を引くことはなかった。
大人の形になりつつあってもなお、掴み取れてしまいそうな細い腰に両手の指を食い込ませ、セフィロスは本気で動きを再開した。
血の味が、何かを激しく滾らせる。
力なく唇に挟まれて食まれる指を、中心を捕らえる熱い内臓を、もっと。
「痛……い。いたっ!」
「嘘をつけ」
指をくわえた状態での応答はくぐもっている。
クラウドは駄々をこねるように幾度も抗議し、しかし雄の印は快感を示して、顕著に限界の痙攣を繰り返した。一方的に高める動きは止めず、抜き出した血の流れる指を掴み、その指を己の胸と、少年自身の胸に擦りつけた。
肌に指の跡を残す真紅の液体を眺め、セフィロスは目を細めた。
男にヒトらしさを与えながら、彼は同時に自分を狂わせる。
セフィロスの動きに翻弄されて蠢く胸が、赤い残像を見せるように、彼の胸を刃で貫く欲求に逆らえなくなる時が来るに違いない。
このけだものから逃げろと、自分から彼を引き離すことが出来ない限り、何時の日か、このいじらしいほど己のものになった少年は、足元で躯になってしまうだろう。
「クラウド」
尻の肉を掴んでいた掌を背に這わせ、滑らかなそれを撫でながら胸に抱き寄せる。
荒く、乱れた息を吐きかける少年と共に、終息への階段を駆け上がった。
その日は。その時は。
せめてこうして、痛みさえ忘れさせる絶頂の中で。
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05.11.03(了)
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