王国へ・外伝 |
王国からガイアへの補完 |
あの不思議な世界から帰り、クラウドはセフィロスと共に、アイシクルエリアの北の土地を目指した。
元々ニブル山から寒風が吹き下りる土地で生まれ育ったクラウドにとっては、北はむしろ住みやすい気候で、篭るには手頃な山小屋があることを知っていたからだった。幸い吹雪になるほどの時期でもない。
チョコボは一気に南下し、ほぼ丸一日の強行軍にも堪えた。さすがに到着した頃には少々疲れたようだが、小屋に併設した納屋へ入れてやるとさっさと与えた野菜を食べて、まだ日も高いのに満足げに眠りについた。
チョコボの世話を済ませて小屋に戻って来た頃には、セフィロスが暖炉に火を入れていた。小屋の中には、埃だらけだがとりあえずの寝床に使える毛皮があり、煮炊きする為の鍋なども置きっぱなしになっている。薪は少量だが部屋の隅に積まれている。今後の方針を決めるまで留まるには何ら不足が無い。
「ここはお前の家なのか」
セフィロスは暖炉の前で薪を動かしながら聞いてきた。
「違うよ。昔、登山家だったじいさんが建てた小屋だ。じいさんが死んでからは猟師が立ち寄るくらいだろうな」
小さい窓ガラスから差し込む昼間の陽射しは温かだった。
「薪が少ないし、獲物を見つけないとな。オレ、ちょっと出てくる」
「待て。お前、剣がないんだろう。丸腰でどうするつもりだ」
セフィロスとの勝負の際、クラウドが使い続けていたバスターソードは壊れてしまった。無論修理は利くだろうから持ち帰ったが、今は武器として役に立たない。向こうの世界で仮に使っていたソードは置いて来てしまった。
「モンスターが出ない訳ではあるまい。その爪で戦うつもりか」
左だけで、といい足して、クラウドの鉤爪を指し示した。
確かに利き手ではない左の武器だけで、アイスドラゴンと戦うのは難しいだろうが、
「魔法が使えるから、どうにでもなるだろ。遭遇したら逃げたっていいし」
「オレが行く」
セフィロスは壁に立て掛けてあった正宗を取り上げ、ドアに向かった。クラウドはその袖を掴んで引き止める。
「いやだ」
「…お前はここにいろ」
「やだ」
「何故子供のような駄々を捏ねる」
「…もう、待つのも追うのも、嫌だ」
掴んだ手に力を込め、訴えたクラウドは俯いた。セフィロスが溜息をつく音が聞こえた。
呆れられているかもしれないが、どうしても引けない。
セフィロスの手が伸び、そっとクラウドの手を外そうとする。抗議しようと顔を上げたクラウドは、予兆もなくその手を引かれそのまま抱き締められた。
「クラウド」
「嫌だ、オレが行く」
「では二人で。お前の傍を離れずいると、二度も誓ったのだからな」
それでいいかと問うように見つめられ、クラウドも頷く。
だがセフィロスは首を横に振ってから言い直した。
「やはり狩りは夜にするとしよう。薪は明日でいい」
気温は下がるだろうが、夜の方が獲物は増える。夜間でも月明かりさえあれば十分の二人には正しい意見だったが、
「でも薪は、朝までもたないと思う。朝方は凄く冷えるし。」
以前クラウド以外の誰かが、立ち寄った際に積んだと思われる室内の薪では、明日の朝方には燃え尽きてしまう量だった。クラウド達が凍死することは考えられないとしても、あえて寒い思いをすることはない。
セフィロスはクラウドを抱き締める力を弱めた。
解放されるのかと思ったが、彼の手の平がめくり上げたセーターの裾から忍び込むに至ると、クラウドも漸く彼の意図に気付いた。
「…あの、さ」
「薪が切れたら、オレが暖める」
片手で器用にベルトが外されて、クラウドは焦った。
「セフィロス、あの、オレ」
言いかけた唇を短い口付けに塞がれ、抗う間もなく毛皮の上に横たえられた。
埃は払ったものの、固い毛の所々が剥げ、薄汚れた敷物は急ごしらえの寝床だった。それなのに首筋や腕に直接触れる毛皮の刺激にまで、クラウドは嫌悪でなく総毛立った。
「何だ。嫌なのか」
「嫌、じゃない」
微笑に見下ろされ、クラウドは男の首の後ろに腕を廻して引き寄せた。
身体が密着すれば熱くなった場所までも悟られてしまうだろう。だが、彼の首筋に顔を埋め、その匂いを嗅いだだけで、欲求は器から溢れる水のように流れ出ていった。
彼と再会してから十日ほどの時間が過ぎている。その間、二人きりの時も、そうしたチャンスもあったはずなのだが、どうしてこれまで我慢できていたのか不思議に思うほどに、今のこれは強い、抗い難い衝動だった。
唇を互いに貪ることに熱中している内に、シャツは剥ぎ取られて床に打ち捨てられた。まだ服の下に隠れたままの股間を大きな掌に撫でられ、クラウドは敷物の上で身をよじる。
「もう、固くなってるな」
「あんたは」
手を這わせてセフィロスの前を探る。彼がするのを真似て上下に撫で擦れば、それ自体が生き物のように身を起こすのが分かった。
己の身体に与えられる刺激よりも、その事実がクラウドの理性を食い破る。男が己を欲しがっているという事実が、クラウドの記憶からそれに応える術を掘り起こす。
自然と唇を割る、名を呼ぶ声には喘ぎが混じった。
「いい子だ、クラウド」
彼が過去何度も告げた呪文に、自然と腰が浮いた。
その隙にズボンを下着ごと引き下げ、手際よく着衣を解いていく掌が、素肌に触れるだけで鼓動は常の倍まで速度を増し、下肢が痺れたように制御を放棄する。
呪文を吐いた唇は、心音を確めるように左胸を這い、傍にあった乳首を吸い上げた。
「セフィロス」
語尾が自分でも艶めかしいと思えるくらいに掠れた。
「お前の、オレを呼ぶ声は、時折こんな風だった」
顔を上げて、彼方の記憶にある艶然とした微笑を向けられ、クラウドは目を細める。
「その度に、お前を抱く夢を見た。こうして…」
一旦言葉を切り、再び唇が小さな乳首を挟み、舌はその周囲と先端を挑発する。上目遣いにクラウドの様子を伺うセフィロスは、妙に真剣な顔つきになって、それを咥えたままくぐもった声で続けた。
「思うさま、鳴かせてやりたかった」
グローブは外したものの、着衣のひとつも乱れていない男が、赤子が母親のそれを吸うように熱心に、クラウドの胸に舌を這わせる姿は無邪気なようでいて、たまらない淫靡さを感じさせた。
それが執拗で、うっとおしいと思えるならば、もっと早くにこの男の呪縛から逃れられただろう。
クラウドは一方的に翻弄される身体と脳に叱咤しながら、男の方へと手を伸ばした。
今まで微動だにしなかった腕は、その着衣を剥がすことに執着する。
薄い体毛に覆われた身体は記憶にあるより白い。骨格標本じみた黄金率の肉体は、クラウド自身が驚きを感じるほどに欲情を誘われるものだった。
初体験がセフィロスだったという事実はさておき、クラウドは男のみに欲情する性癖があったとは思っていない。
それでも今、身体は顕著に反応する。
その胸を触れ合わせ、太い腕に脚を掛け、同性なら羨むほどのたくましい性器で奥深くを抉ってほしい。そこで体温と力を感じ、ここに二人が在ることを思い知らせてほしい。
想像するだけで産毛が立つような昂揚に、クラウドは目を瞑り、喘いだ。
「早く。あんたと、繋がりたい」
男の右の人差し指と中指を口内に導き、唾液を絡める。
セフィロスは薄い笑みを浮かべた表情は変えず、クラウドの望むままにそれを尻の間に差し入れて来た。
望みと裏腹に、長い時間愛される機会を得なかった場所は、清い処女のように指先を頑なに拒んだ。
「何を怖がっているんだ。力を抜け」
そう呟いたセフィロスの腰が、仰向けになったクラウドの脚の間にあった。ようやっと浅く繋がった身体は、少しでも動かせば引き裂かれるような痛みを伴った。
「…痛い」
「他人と肌を合わせるのが久しぶりだという意味か」
「いいだろ、別に」
この数十年の内に何度かは、慰みに売春婦の肌を求めたこともある。クラウドの容姿に惹かれた男に求められたこともある。無論肉体の快感は得られたが、行為を終えればそのどれもが空しかった。
かつてクラウドの身も心も奪い、求め合った男との交接とは、その刺激も高揚感も満足感も、全てが程遠かったからだ。
セフィロスの固くしっとりとした肌の生み出す感触は、クラウドの記憶の中で徐々に美化されていったように思う。実際最初の頃のそれは、クラウドにとって苦痛の方が大きく、自分自身から快さを覚えて求めるようになったのは、ごく短い期間だった。
それでも渇望する相手を見出しながら他の人間を抱き締め、抱かれる度に、孤独を思い知らされた。
「死んだあんたに、操を立てた訳じゃない」
「じゃあ、何故だ」
「あんたほど、良くなかったのかもな」
強がりにしかならない反論は、セフィロスが小刻みに動かす感触に止められ、混乱する思考が一切の拒絶の手段を断った。引き攣る痛みは徐々に去り、すぐにもっと強い刺激を欲して自然と力を抜く。
「そうだ。いい子だな」
容赦なく更に奥へ身体を進めてくるセフィロスの胸に縋り、クラウドは悲鳴を上げる。
黙々と身体を開くことに集中していた男は、クラウドの歪め、冷や汗に濡れた顔を覗き込んでから、投げ出されていた足首を掴んだ。
「リユニオンなどしなくても、こうすればひとつになれる」
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急いた呼吸は、青年の代謝を常の数十倍にしてしまっている。
逝き急ごうとしているようにも見える。
今、生きている実感を互いに得ようと身体を繋げているはずなのに、剣を握るには細い手がセフィロスの髪を繰り寄せて握り締め、その固く力の篭った拳が口元を塞ぐ様子は、今際のきわのようでもある。
それでも容赦なく責め、決して苦痛ではないだろう感覚に上がる掠れた声は、葬列の為の鎮魂歌には不似合いな、不純な響きがあった。
堪えるようにうめき、安堵の溜息と共にクラウドが果てる。
昔はこんなに静かに、しかし蟲惑的に落ちていく子供だっただろうか。
互いに幾度か頂を越えた体を寄せ合って、セフィロスは薪が燃える暖炉を見つめていた。
時折うつらうつらと眠りに落ちては、すぐに目覚めてセフィロスの身がすぐ近くにあることを確める青年へ、セフィロスはついに言葉を掛けた。
「眠いのなら眠るといい」
「いやだ」
「頑なにならずとも、どこにも行きはしない」
汗は乾いてさらさらとしているが、互いに下肢は欲望の残滓にまみれている。拭いもせずに放置したままクラウドが完全に寝入るのを待っている。
少しでも身を動かせば、それを禁ずる肉の枷がセフィロスを縛り付けた。離れるなと命ずるように。
だが暫くして、久々に身体を貪り合う作業に疲れたのか、クラウドは深い眠りに落ちた。そして彼の向こうに燃える薪は残り僅かになっていた。
セフィロスはゆっくりと身体を起こしクラウドの下から抜け出すと、音を立てないよう注意しながら服を身につけた。残りの薪を全てくべてから、暖炉脇にあった斧と正宗を手に、そっと山小屋を抜け出す。
外はすっかり夜の闇に包まれている。
だが空には月があり、積雪も濃紺の空を映して青い光を放ち、視界の確保は容易かった。
辺りを見回して立ち枯れた木を見つけると、一直線に歩み寄ったセフィロスは、抜いた正宗の一刀で幹の半ばを断つ。正宗を鞘へ収め、後は斧を使って細かい枝を落とし、薪にする部分だけを抱えて山小屋の前へ戻った。
山小屋の正面には、小屋の補修の為の木材が積んであった。防水布がかかったそこに真っ白な積雪があり、こんもりと小山の様に見える。薪割りの土台に使われる大きな切り株にも雪が積もって、その姿は殆ど見えなくなっていた。
セフィロスは雪を払いのけ、伐採してきた枝をその上に置いた。
薪を割る音でクラウドが起きてしまうかもしれないが、小屋の前で音がすれば逆に安心するに違いない。
そう思って、セフィロスが斧を振り上げた時だ。
小屋の扉が突然大きな音を立てて開いた。
振動で屋根に積もった雪が落ちるほどの勢いだった。
ドアから現れたのは、かろうじて毛皮を肩に掛けたクラウドである。剥げだらけのみすぼらしい毛皮から覗く脚は、雪明りに白く、艶めかしく見える。裸足のくるぶしがドアの前の踏み固められた雪に冷たそうで、セフィロスは無意識に眉を寄せていた。
「クラウド」
呼ばれた青年は驚いたような顔でセフィロスのいる方を振り返る。
屋外に出るのならば服を着ろ、と注意する暇もあらばこそ、裸足の脚で積もった雪の上を走り、斧を持ったセフィロスへ飛びかかってきた。
「クラウド!」
勢いを受け止め損ねてセフィロスは雪の上に押し倒された。
毛皮は投げ出され、完全に生まれたままの姿になったクラウドが、両手をセフィロスの頭の脇について覆い被さる。見下ろしてくる人一倍大きな瞳は、正気を無くしているかに見える、切羽詰った輝きだった。
「どこにもいかないって、言ったろっ!」
「薪を調達しようと思っただけだ」
「そんなこと、訊いてないっ。二人で行くって言ったろ! 離れないって言ったろ! あんたが、また消えたのかと…さっきのが夢だったかと…!」
静かな山林にこだまする音量で、クラウドは怒鳴った。
激昂する青年を抵抗せず見上げていたセフィロスは、彼の手が酷く震えていることに気付いた。
クラウドはその手で、確めるようにセフィロスの身体を撫で下ろし、胸に額を押し付けた。
「…今度消える時は、オレを解放して」
無意識にセフィロスの魔晄の瞳が燃えた。
彼の急変に驚いたクラウドが身を離す間も与えず、両手首を捉える。
「解放などしてやるものか」
低い囁きに強張った身の震えが、掴んだ手首を通して伝わった。
悲しげな色を帯びた悲鳴が断続的に木々の間に響いた。まるで森の精霊たちの嘆きのように聞こえる。
穢れを知らない積雪は踏みにじられて、その上を逃げ惑う足を伝うものが真っ白な地面を汚す。
だがセフィロスにとって彼の体液は、跪いて口付けても構わないほどに尊いものである。
彼は人ならぬセフィロスをヒトとして生まれ変わらせた、神ともいうべき存在だ。彼の命の源であるそれらを嫌悪すべき理由などない。
「オレのものだ」
幾重にも刀や牙の傷を残した背に冷たい口付けをして、時折跡をつけながら、セフィロスはクラウドを挑発し続けた。辿り着いた肩口に歯を立て、傷がつくほど噛み付く。
「逃がす、ものか」
雪まみれになった金の髪を引いて上半身を起こさせる。振り向かせて強引に貪る唇は戦慄くことを止めない。セフィロスはより強く髪を掴み、クラウドの手を積んだ木材につかせた。萎える青年の両足を腰を抱くことで支える。
一方的に奪う行為だが、青年が感じているのは痛みだけではないはずだった。
奪う男を呼ぶ声には暴行に対する批難以外の色が混じっていた。
「地獄の果てまででも、追ってやる」
耳元で囁く声は澄んだ空気を白く曇らせる。
青年の長い指が木材に積もった雪を握り締めた。指の間を溶けた雪が流れ落ちる。
ずっと閉じていた目が薄く開いてセフィロスを見たそれは、深い陶酔に潤んでいた。
「追えよ。何度でも追いついて、こうやって、オレを犯せ」
己を生んだ者の肯定の言葉が、大罪人にも許しを与える。
セフィロスは瞠目し、青年の冷えた背に顔を埋めた。
暗く淀んだ執着ゆえの所業だとしても、全世界がそれを責めようとも、世界そのものが失われても、彼が存在する限りセフィロスは追い、求め続けるだろう。
清らかな雪への血判、肌に刻む署名。
大いなる神が存在しなくとも破ることは叶わない。
互いが互いの神である限り、その誓いは有効なのだ。
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* * *
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大量の薪を惜しげなく使い、小屋を温め、湯を沸かした。雪を足してぬるま湯にし、そこに浸したタオルで横たえた青年の身体を拭う。
深夜、それも屋外の雪の上で、これまでにないほど手酷く犯した彼の身体は、まるで氷のように冷え、引っ掻いたような傷からは血が滲んで乾いている。太腿の内側には濁った体液が道筋を作り、尻には飛沫のように跳ね飛んだ血がこびりついていた。
丁寧に拭いながら魔法で傷は全て直したが、気を失った青年はまだ目を覚まさない。
口の中が苦い。
それが後悔の味であることを、セフィロスは既に知っている。
何も知らない少年の頃の彼であれば、大人の言い訳に騙されてしまうかもしれない。しかし既に対等以上の成人の彼をこうして抱くことは、単なる侮辱であり暴力だった。
セフィロスは今でも生き物を殺すことに躊躇はないが、いたぶって殺すことに快感を覚える人間の気持ちは理解できない。それどころか積極的な嫌悪すら感じる。
それと同じことをした。
唯一無二の者へ。
「なんて顔してんだよ」
青年は何時の間にか気付いていたらしく、目を開いていてセフィロスを見ていた。
大きな海を思わせる瞳が何の淀みもない光を放つ。
セフィロスは射抜かれる。
「―ー酷くした。悪かった」
「オレが、やれって挑発したようなもんだからな。怒ってないよ」
クラウドは頭を動かして暖炉を見ていた。
彼が気を失った後、その薪を必死に、それも慌てて用意した姿はあまり想像されたくなかった。
「お前のことになると、オレは未だに我を忘れる時がある」
そうして大人しく身体を拭われていた青年は、処置を終えて、桶やタオルを片付けたセフィロスが戻ってくると、ほっと安堵の息をついた。
セフィロスは青年の横の床に直接座り、彼を怯えさせることがないよう、ゆっくりその額に指を這わせた。
何度目かの溜息を吐いて目を閉じている。
そして突然問い掛けてきた。
「…こういう事訊くの、結構あざといって思うけど、あんた今でもオレに惚れてるの?」
「ああ」
「オレさ、あんたが初めてそう言った時のこと、昨日みたいによく覚えてるんだ。でも…ホントはあれから凄い時間が過ぎてるだろ」
「ああ」
事実、セフィロスがクラウドと出会い、彼への気持ちを自覚してから別れを迎えるまでにも半年、一度は死に、魔晄の流れに漂った空白の五年、復活してあちらの世界で目覚めるまでにも数十年が過ぎた。
長い間には様々なことがあった。
心から求め、初めて手に入れたいと思った存在から、セフィロスも、クラウドもまた恐ろしいほどの長い時間、遠く離れて過ごしていたことに、今更ながら驚きすら感じるくらいだ。
「でもオレ、あんたの誓いを信じたいよ」
仰向けに寝転んだ姿勢から、青年はごく真面目な顔でセフィロスを真っ直ぐに見据えていた。
暖炉の揺れる火が、長い睫毛の影の形を小刻みに変える。
クラウドも成長し、あの頃から変わらずにあるものは殆どないと思うのに、彼を見る時の気持ちは僅かしか変わっていないのかもしれない。でなければ、こうしてあの頃の気持ちを思い出すことも、そう簡単には出来ないはずなのだ。
「やり直そう、セフィロス」
見上げる目の強さに負けそうになる。
「オレも、あんたのこと好きなんだ。昔からずっと。今も。昔より」
床に座り込み、まだ冷たい手をとってその指に口付けた。
「あんたを愛してる。殺したくなるくらい」
「クラウド」
「今度死に別れる時は、絶対相打ちだからな。しくじるなよ」
強気な言葉と裏腹に、震える語尾が静かな小屋の中に良く響いた。
「ああ」
もう片方の同じ温度の手を両手で捧げ持ち、体温を与える。
そうして答えるセフィロスの言葉は、まだ青年が幼かった頃に告げたものと同じ文句だったが、恋と呼ぶに相応しいあの時の気持ちより、ずっと深く、永遠を信じられるものに昇華していると思えた。
忌まわしい細胞の呪いから解放たれた『リユニオン』。
セフィロスの望みであり、クラウドの望みでもあった真の意味でのそれは、漸く成就された。
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王国へ・外伝(王国からガイアへの補完)
03.04.27
03.10.26(改稿)
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