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唇の上


 己のものを全て受け止めた青年を見下ろして、複雑な気分で濡れた唇を指先で拭った。
 欲望の証である体液は、彼へ淫靡な彩りを添えているにも関わらず、微笑み、見上げてくるその顔は無邪気で打算の欠片もない。
 眉を少し顰めて、無理に飲み下す必要はないと告げる。
 その言葉は、正しくは嘘だ。一切を拒絶せず、全てを受け入れる青年にこそ、己の存在価値を見出していた。
 指先で唇を開かせると、彼は餌を求める雛鳥のようにぱくりと口を大きく開けて見せた。唇の端を汚す雫以外、舌の上にも、咽頭の奥にも、名残すら見当たらなかった。
 イガイガすると呟いて、サイドボードに置いたミネラルウォーターの瓶をあおる、過去にもそんな行動を何度も見たことがある。
 透き通った金髪の生え際に汗の粒を上らせて、こちらの眺める視線に気付いたのか、そこに張り付く髪を掻き上げながら、小さく笑い声を漏らした。
 小さな八重歯が覗く。
 その八重歯もつい先程までは、己の指先に噛み付き、陰茎にも微かな痛みと心地よさを与えていた。
「アレってタンパク質だよな。オレの筋肉になるのかなあ」
 馬鹿なことを、と苦笑で返しながら、度々互いの身体の一部を飲み下すこの行為は、神の血と肉を授かる聖餐と同じなのだろうかと思う。それならば口付けの合間に唾液を啜るのも、滲んだ涙を舌で拭うのも同じだ。
 こうして数え切れないほど身体を重ね合わせていれば、血肉を分け合い、二人はひとつのものになっていくのだろうか。
 伸ばした手で強い金の髪を掴み、引き寄せた額や頬、唇に接吻を繰り返し、青年の唾液を誘う。己の精液の匂いが微かに残る口腔を探り、手繰り寄せた舌を噛む。
 真皮の薄い唇を幾度も擦り合わせて、体温を感じるだけで妙に刺激的だった。
「セフィロス」
 ぴったりと隙間無く覆い被さる身体に掌を往復させている内に、密着する股間が固い感触で腹に当たるようになる。気付かぬふりで口付けを続け、熱く乱れてくる吐息ごと、唾液を飲み込んだ。
 子供がぐずるような声を漏らして、腰を蠢かし、押し付けてくるようになるまで無視し、すぐにひとところに置けなくなった尻へ手を這わせて、柔らかい肉を強く揉むと全身が緊張した。
 やはり己と、この青年を形作るものは全く異なるものだ。
 なんの感慨も覚えない己の身体と同じ、男の構造をしているはずなのに、手触りも、味も匂いも、己とは違う。でなければこれほど飽くことなく堪能したいなど、思うはずが無い。
 胸から腹へ、筋肉のくぼみに沿って指を滑らせ、温かい下腹の感触を堪能する。
 体温が最も高い腹部は、他の場所より若干体臭が強い。それもごく薄く、鼻先を肌に直接当てて漸く感じる程度である。
 骨の尖りがない場所は鍛えられ、無駄は一切ないが、表皮のすぐ下は実用的な薄い脂肪がついている。彼の身体の中でも柔らかく、滑らかな場所を、我ながら変質的なほど気に入っていた。
 軽く歯を立てて真皮を削ぐように食み、そのまま唇を下ろして、形を変えた場所を口に含んだ。
 髪に伸ばされた十本の指が、引き止めようとそこを掴む。
 いや、止めたいのではなく、促したいのか。髪を掴んだ指先は、まるで己の頭皮を剥がそうとするように、強く引かれた。
 唇からは解放せず、視線だけを上げて様子を窺う。
 目を細めて見下ろしてくる青年は、頬を僅かに紅潮させて、口腔に覆われただけの感触にも高ぶっていることは明らかだった。
 困惑気な表情に微かに沸き上がる嬉しさは、彼だけが己に与え得る。
 ならばこそ完全に同化してしまわぬように、少々手加減して、この青年の一部を摂取せねばならない。


06.02.20(了)
アイコ<http://www.natriumlamp.com/B1F/>
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