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夜伽噺


 緑の布を張ったような丘陵地に、幾人もが同時に寝そべれるほど巨大な、平たい一枚岩が点在している。若い娘のように美しくくびれた島の中央地帯を過ぎると、小高い丘の向こうにウータイの街が広がっていた。
  過去には最も激しい前線であった西端の陸地、その街の周辺に、百年以上経った今当時の荒涼とした面影はない。
  とはいえ、大昔の記録を見ている者もいないとは限らないのに、問題の当人はまったく気にする様子もなく、堂々と目抜き通りを進んでいる。
  他の土地とは異なり、この地に住む者たちは一世紀前の戦火にも関心が強い。実体験のある者は既に亡くとも、祖父母から詳細を聞き及んでいる若者も多く、当時の歴史を議論し、本にまとめる研究者もいた。
  街へ入る前にはもちろん、顔を隠すことを勧めてみた。だが、素直に従った男がマントのフードを被ると、二メートル近い長身が頭から布を被った格好になり、観光地化された町中では悪目立ちすることこの上ない。
  諦めて顔を晒して進んでみたものの、やはりどんな格好でも彼は衆目を集めた。視線の中に、男の正体への疑惑が混じっていないことを願うしかなかった。

 クラウドの記憶にある最後のウータイの姿は、メテオの被害に見舞われて、古い建造物の半数が崩壊したころのものだ。その後も幾度か独り訪れてはいたが、不思議と当時の風景は記憶に残っていない。
  今、ウータイは独特な景観を守るために厳しい建築基準が設けられている。白壁に黒漆喰で塗られた柱、朱塗りの欄干、そして赤茶と黒の瓦屋根は、数百年前の建造物も新たに建てられたものも、同じ意匠を引き継いで統一感のある街並みが創られていた。
  個性的な文化の育つウータイに観光客の足は途絶えず、観光シーズンの過ぎた季節にも関わらず、厚く防寒着を着込んだ客の姿もちらほら見える。揃いの瓦屋根に雪が積もれば、それもまた一興なのだという。
  観光客にしては薄着のクラウドと連れのセフィロスはその日の夕刻、ウータイの一番入口にある小さな宿を取った。そこは数少ない昔の建物を改装した宿であり、元々クラウドの友人が家族と共に暮らしていた家でもあった。
  宿らしく扉などは作り変えてあったが、板の間の部屋の印象は当時と同じだった。四角い部屋の一角に正方形の分厚い畳が直接置かれ、その上に布団を敷いて寝台代わりにするのがウータイ式だ。煌びやかな色彩の屏風に透かし彫りの欄間や螺鈿の家具などは、今でも根強い人気のウータイ特産の工芸だった。
  またこの部屋は思いのほか天井が低い。実は天井裏に隠し部屋が存在しているのだと、宿の案内役がわざわざ説明していった。
「なぜ隠し部屋が設けられているかまでは説明しなかったな」
  それまで始終無言だったセフィロスが口を開いた。
「この建物、元々はユフィのうちだったんだ。あそこは代々忍びの家系だったらしいから、そのせいじゃないのか?」
  セフィロスは小さな隠し部屋への階段を上って中を覗き込み、それから振り返って意味深な笑みを浮かべた。
「どうだろうな」

 そもそもなぜ二人がウータイを訪れたのかといえば、セフィロスの愛刀の為である。
  かつて神羅軍にいた時代からセフィロスのトレードマークであった正宗は、妖刀の異名を持つだけあって普通の剣とは違う。鞘は消えたり現れたり、長さすら違って見えることもある。そしてセフィロスの意志で刀そのものを呼ぶことも出来る。
  仕組みも出処も一切が不明、もちろん作者も、どうやって彼が手に入れたのかも知られていなかった。
  唯一持ち主のセフィロスが知る事実は、正宗がここウータイにあるダチャオ像の刻まれた須弥山の火で打たれたものだということだ。
  数十年に一度、切れ味に違和感を感じた時、その火に投ずることで命を吹き返す─というのはセフィロスの説明であり、クラウドは直接様子を見たことはない。
  今回こそは現場に立ち会ってやろうと、クラウドは男の後についてやって来たと言う訳だ。
  ダチャオ像は須弥山の岩肌に直接彫刻された石像で、須弥山に登ることで全長数十メートルの巨大な姿を間近に見ることが出来る。一時期登山ブームで相当賑わったこともあるようで、現在は石像の保護のため、以前よりも一般人の立ち入りが許可される場所は限られていた。観光客や登山客の出入りする山道にはウータイ人の警備が行き来し、時折現れる小さなモンスターを駆除して回り、登山は思った以上に安全な道のりだ。
  だがクラウドたちの目指す場所は、立入禁止区域の更に奥、普通の人間では絶対に入り込めないような峠を越えた先の、岩の亀裂を進んだところにあった。
  人目を盗んで山道から逸れ、急な崖の途中に口を開いた深く長い亀裂を進んだ先には、穏やかな須弥山の様子からは想像もつかない激しい炎の上がる溶岩溜まりが、それ以上近づく者を拒んでいた。聖なる炎に守られた場所で、過去にクラウドは大いなる力のマテリアを見つけたこともある。そしてクラウドでさえそれ以上進んだことのない場所まで来ると、セフィロスは無言で片手を上げ、魔法の詠唱を始めた。
  呼び出しに応じた気高き氷の女王は、術者の肩に手を乗せ、クラウドへ挨拶するように頬に優しく触れてから、吹き荒れる熱気と炎を冷たい死の吐息で抑え込んだ。
「これでしばらくの間はもつ」
  炎の静まった溶岩溜まりの横を抜け、更に岩の上を進むと、行き止まりには丸く整った形の窪みがあった。恐らく火口なのだろうが、魔晄炉の炉心にある魔晄泉よりも小さいくらいだった。
  セフィロスはその場に膝をついて正宗を鞘から抜くと、目貫と鍔を外して柄から剥き身の刃を抜き、その刀身を唐突に火口へと投げ入れた。
  クラウドは思わず声を上げたが、セフィロスは眉ひとつ動かさず、刀身のない柄と鍔を組み直して太刀緒で縛り上げると、空の鞘を持って立ち上がった。刀身を失った正宗は、いつもの半分ほどの長さに見えた。一見して分かるほど鞘の長さも変わるのかとまじまじと見つめながら、クラウドは呆然と口を開く。
「あんた、迷いはないのか」
「なんのことだ」
「ずいぶん潔く投げ捨てるなあ」
  呆れて口の塞がらないクラウドへ、セフィロスは用は済んだという顔だ。
「あんなことして、溶けないのか?」
「溶けない」
「どうやって火口から拾うんだ?」
「勝手に帰ってくる」
  その場から去ろうとするセフィロスを慌てて追うと、先程シヴァが抑えた炎が復活しつつあった。
  まさに煙に捲かれたように恐怖すら感じる熱気を発する溶岩溜まりの脇を抜け、何が起こっているのか理解出来ないまま洞穴を脱出したクラウドは、セフィロスの袖を引いて再び聞いた。
「いつ、帰ってくるんだ?」
「分からない。恐らく一日程度はかかる」
「そんなに」
  とはいえ、疑問の残る修繕作業は余りに簡単過ぎた。クラウドが想像していたのは、もっと時間と手間のかかる厳かな儀式のようなものだ。
「二日ほど掛かったこともあるが、余り不在が長いと鞘と柄が泣く」
  意味が分からず首をひねっている内に、セフィロスはさっさと山道を下り始めた。
  自宅から離れた場所で迷った飼い犬が、何日も掛けて主の元へ帰って行くように、走り寄る刀を想像してクラウドは思わず吹き出しそうになった。
  正宗の力を司るものは、本当は笑っていられるようなものではないかもしれないが。

 日帰り登山の埃を部屋に設えられた檜の風呂で洗い流し、文化的な食事で腹ごしらえをしてクラウドは機嫌の良さを隠せない気分で、小さな火鉢の前に寝そべっていた。同じく湯を使ったセフィロスが濡れた髪を拭いている背へ這うように近寄った。
「なあ」
  振り返ったセフィロスはいつもの無表情だったが、腕を引くとクラウドしか分からないくらいの微かな笑みを口元に浮かべた。
「お前が誘うとは珍しい」
  覆い被さって来たセフィロスの身体で、床へ直接据えられた四角い行燈の明かりが遮られた。
「誘ってない」
  否定は聞き流され、着物のような型の部屋着の袷をはだけられ、唇は胸元へ押しつけられる。執拗に乳首の先だけを探り、心地よく感じるころには上肢を支えていた腕の力を抜いた。
「まだ、帰って来てないのか?」
  笑い混じりの声で問うと、セフィロスは寝具の脇に置いた鞘を引き寄せた。
「まだだな」
「さっき言ってた、鞘と柄が泣くってどういうことだ?」
  先程洗った場所の石鹸の匂いを確かめるように、セフィロスは徐々に胸から腹、下腹へと鼻先を動かし、そのまま身を起こしかけたクラウドの陰茎に口づけた。
  整った薄い唇に己のものが覆われている様子は、いつ目にしても恥辱と同時に沸き立つ雄の本能を抑えきれなくなる。顔に降り掛かる長い前髪の間から、刃物のような目つきで見上げるセフィロスを見返して、無言で続きを求めた。
  この男の冷静さを裏切るような舌遣いで望みが叶えられ、溜まらずに上がる声を己の掌で留めようとするが、続けて長い指先で後ろを探られて、思わず悲鳴になった。
「ちょっと」
  制止する余地もなく、いつの間にか潤滑剤の滑る感触と一緒に指先が進む。いつも以上に激しく内部深くを捏ねられて、クラウドは何度も周囲の灯りが明滅しているような衝撃を受けた。
  セフィロスの長い指の根元が尻の間に触れるほど、しかも性急にされれば、慣れがあっても苦しい。内臓をかき回される違和感と、いつもと違う抱かれ方に焦りも覚える。
  浮いた汗が背中で丸まった部屋着に落ちた。
  同時に入口に固いものを押しつけられ、小さく息を飲んだ。まだ触れてさえいないセフィロスは酷く固く、奇妙なほど冷たく、クラウドは思わず首を起こして覗き込んだ。
  挿入の姿勢にしてはセフィロスが遠いような気がした。身体へ割り入ってきたものは無機物の固さだった。
  セフィロスのものでないと気付いた時には、動きに不自由さを感じるほど深く奥まで入り込んでいた。
「鞘も柄も、刃がないと寂しがる」
「な、に」
「お前が慰めてやれ」
  命令口調と裏腹に、優しい表情で見下ろして来たセフィロスの手にあるのは、正宗の鞘だった。先端の丸い部分はクラウドの身体の中へ消え、緩く湾曲した形に沿って、支えたセフィロスの手が小刻みに出し入れを繰り返す。
  鞘を挿入されたのだと理解し、抗議しようと上げた声が喘ぎに紛れた。
  セフィロスのものより幾分細く、尖りのない形のものはゆるゆると奥へ潜り込み、引かれるともどかしいほど引っかかりなく抜き出される。
  微かに沸いた怒りが霧散し、身体を突き通される被虐的な快感を得て、クラウドの震える唇から漏れた声は長く尾を引いた。
「そんなもん、入れるなよ……もう」
  細めた目で見上げると、セフィロスは生乾きの髪の間から ごく真剣な眼差しでクラウドを見つめている。
「刺し貫いている気分だな」
  実際に刺してるじゃないか、と胸の内で思いながら、見下ろしてくる男の独特な形の瞳の奥にぎらぎらと滾るものを見出した。彼が少なからずこの行為に興奮しているのだと気付いて、クラウドは浅く速い呼吸を乱れさせた。
「オレを、殺したい、のか?」
  ゆっくりと、しかし容赦なく更に深くへ鞘が進む。
  同時に近づいて来たセフィロスの唇が、クラウドの鼻先を掠める。
「いや。生きたまま逝かせたい。幾度も」
  唇が重なり、互いを貪る勢いで吸い合った。
  一度完全に抜き出されて喪失感に身じろぐと、再び埋められたものは痛みを伴う質感だった。今度は柄を挿入されたと気付いたが、クラウドは自ら片足を抱えて楽な姿勢を取った。
  次第に速く動かされ、目貫や鍔が擦れ合う金属的な音を立てている。
  不思議とそれを受け入れることがごく自然な事のように思え、もう一方のセフィロスの手で前を弄られると、いつもより素直に声が漏れた。途端に酷く恥ずかしい行為だと思い至り、柄を汚していることが心配になる。
  見えない場所へ視線を向けようと顔を上げた瞬間、無機質に身体を拡げているものが突然熱を発した。
  セフィロスを受け入れた時のように熱く、溶解しそうなほど燃え上がり、まるで陰茎そのもののように幾度も脈打ち、大きささえ増している。
  異変に息を止め、身じろぐクラウドに気付いたセフィロスは、抜き差しを止めた正宗の鯉口を切った。
「思ったよりも随分早い帰宅だったな」
  笑いの混じる声と同時に、セフィロスは立てた正宗の鞘を僅かに抜いて見せた。
  いつの間にか刀身が戻っている。鋭く放つ光は本来の力を取り戻したのだと無言に訴え、血を欲するように啼いた。
「お前の中が相当良かったと見える」
  低く笑いを洩らしながら、鞘へ白く光る刃を収めた正宗を床の上に放り出した。
  クラウドは無意識に震える場所を晒したまま固まった。同時に煮えたぎるように頬が熱くなり、怒りに顎まで震えそうになった。
「こんな状態で終わりにすんな! 責任とれよ、馬鹿!」 

 「まったく……寂しがるってなら桃太郎でも話して聞かせてろよ」
  酷使した場所が微かに甘く疼く。
  クラウドが宣言した通りしっかり責任をとらせて、後半はもう十分だと泣き言を洩らすほど愛され、それでも落ち着いてしまえば繋がっていた時の一体感を再び味わいたいと貪欲に思う。
  全裸の身体を沿わせて、低い天井を見上げていると、身体を撫でていたセフィロスの手が上がり、その天井を指さした。隠し部屋のある辺りだ。
「あの部屋がどうかした?」
「単なる予測だが」
  肘をついた手に頭を乗せ、セフィロスが口を開いた。
「ウータイ人には大昔、夜這いの習慣があった」
  突然なんの話かと思わず目を丸くしたクラウドの顔を、機嫌の良い表情で覗き込まれる。
「なんだよ、夜這いって」
「夜這いを知らないか」
「いや、そりゃ知ってるけど」
  今更子供扱いされたような気がして、クラウドは微かに声を荒げた。
「この地方では家督は代々女が継いでいた。お前の友人もそうだったろう」
「うん。そういやそうだな」
「独り身の女の元へは複数の男たちが通う。女はやってきた男たちが気に入れば部屋へ招き入れ、性交し、子を孕めば誰の子だろうとも一家全員が育てる。生殖力の強い男の遺伝子が勝ち残り、子孫はより強く繁栄が望める。それが夜這いの方式だ」
「え。それって、えーっと、一妻多夫制ってことか?」
「夫はあくまで一人だろうが、結婚前や離縁した独り身の女の所へ通うことは複数が許された。婚姻と恋愛が結びつけられたのは近代になってのことだ」
  少なからずショックを受けたクラウドが押し黙っていると、セフィロスは再び天井を指さした。
「あの部屋は、恐らく夜這ってきた男が気に入らない場合に女主が逃げ込んだり、行為の最中や前後に違う男がやってきた時に顔を合わせないよう逃れる場所の名残だろう」
「……本当に?」
「いや。部屋の用途については単なる予測だ。調べたことはない」
  とはいえ妙に説得力がある。確かにこの部屋に住んでいたのは家を継いだユフィだったし、代々の女主人の部屋だったかもしれない。そんな古い風習が今もそのまま残っていることはないだろうが、女性経験の存外少ないクラウドには、これまでの価値観を一蹴される話だ。
「倫理観を問いたそうな顔だな」
  酷く嫌な笑みを浮かべたセフィロスを睨み返す。
「哺乳類や鳥類はみなそうやって繁殖している。知恵が付いたが故に、肉体的、知能的理由以外で婚姻する人間は、どうしても滅びの道を進むことになるな」
「なんでだよ」
「繁殖力の強い遺伝子でなくとも、生き残れるからだ。世代が進むごとに極端に繁殖力の劣った遺伝子を引き継ぐこともある」
「あんたの理屈でいうと、財力のある高学歴で長身の美男がモテるのは、繁殖力が強いからってことになりそうだな」
  皮肉で言った言葉にセフィロスは頷いて見せた。
「もちろんだ。事実、大柄で健康な遺伝子を持っていれば生存競争に勝てる可能性は高い」
「背が低くて悪かったな」
  過去のセフィロスが、まさに先程挙げ連ねた条件に見合った男であることに、少なからず嫉妬を覚える。家族にこそ恵まれなかったが、それ以外の全てを兼ね備えていた、神に愛された男だと言われていた。
  そんなセフィロスが何故、明らかに子孫を残せない同性の、しかも子供の、今の理屈になぞらえるなら最も相応しくないクラウドを選んだのか。今でも不思議に思うことがある。
「すねているのか」
  鼻で笑うような口調に、そういえば初めて彼と関係を持った場所がこのウータイだったと思い出し、無性に恥ずかしくなった。
  熱く火照る頬を見せまいと、ふと逸らした視線の先に、隠し部屋への階段があった。
「そういや、なんでこんな話になったんだ?」
  隠し部屋がどうこうという話ではなかっただろうか。
「お前が何か噺をしろと言った」
「……は?」
「桃太郎の話は結末を知らない」
  確かに桃太郎でも話し聞かせろと皮肉を言った。それは刀身がないと寂しがるという柄と鞘へ、という意味だ。
「あんた、まさかお伽噺のつもりでオレに夜這いと隠し部屋について講義したってのか?」
  何が不満なのだという表情のセフィロスを見て、クラウドは奇妙に彼が可哀相になった。いや、可愛いもののように思えてきて笑いが漏れた。
「あんたに子守は出来ないね」
「する予定はない」
「お伽噺に夜這いの歴史はないよな。あはは」
  堰を切った笑いは止まらなくなり、不機嫌そうになったセフィロスに手荒く毛布を剥かれるまで、クラウドは笑い続けていた。


2010.09.18(了)
アイコ<http://www.natriumlamp.com/B1F/>
※ウータイの歴史とかめっちゃ捏造です。ご了承ください。
【FF7 TOP】
※ここでご紹介するものはゲーム本編とは全く関係のない、個人の趣味と空想に基づくストーリーです。スクエアエニックス社の権利を侵害する目的のものではありません。
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