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髪喰虫

 青年は閨に入り、目を閉じる際に必ずセフィロスの髪を掴む。
 片手で握り取れるほどの束を掴み、その手を胸に抱くように眠る。
 セフィロスの髪は長い。それだけなら大した実害もないのだが、眠りが深くなるころ寝返りを打てば否応なく引っ張られるものだから、セフィロスはその度に覚醒する羽目になった。
 数日眠らないくらい、彼にとってはさしたる支障もない。しかし、
「クラウド、おまえはオレに禿げを作るつもりか」
 遂にそう口にしたのは、まともに眠れぬ夜を一週間も過ごした後のことだった。
「だって」
 朝の冷気に、クラウドは寝台の中で毛布のぬくもりにしがみついたままセフィロスを見上げている。だってなんだと先を促すセフィロスへ、彼は遠慮がちに言った。
「あんたの髪、好きなんだ」
 素直とはいえない彼がそんな言葉を口にすれば、大抵のことは言う通りにする。
 だがこの日は別だった。
「お前、自分が夜中に何をしているのか、わかっているのか」
 セフィロスの問いに彼が答えられるはずがない。恐らく無意識で、覚えていても夢の中の出来事くらいにしか認知されていないだろう。
 何度か起こされるのに半ば諦め、眠らずにされるがままにしていた今朝方、セフィロスもやっと知ったことなのだ。
 案の定小首をかしげて、知らないとそっけない答えが返った。
「夜中に…オレの髪を口に入れて、喰っていた」
「…オレが?」
「ああ」
「…飲み込んでたのか?」
 彼の返答から何を心配しているのかは明確だ。
 別にセフィロスを労っているではなく、腹を下すのではないか、『余計な成分』が含有しているのでは、という不安からだ。
「いや。どちらかというとしゃぶっている。飲み込んではいない」
 なーんだ、と軽く返して寝台へ潜り込もうとする青年に、毛布を剥いで、その幼さを残す顔を見据えて云い含めた。
「子供じゃないんだ。やめろ」
「…いっつも子供扱いするくせに」
 立て板に水、馬の耳に念仏、あと何があったか、幾つか古人の諺を思い浮かべたが、セフィロスは勿論口に出しはしなかった。云おうものなら『爺さんみたいなこと言うな』と軽くあしらわれるに決まっているのだ。
 そのままなんとなく寝台へ戻ってしまったクラウドは、また眠ってしまったのか、膨らんだ毛布の山は静かだった。
 これから何かすることが在る訳ではない。二人に時間は持て余す程ある。おまけにここはアイシクルエリアの山奥、誰か訪ねてくることもない。
 一度暖炉に火を入れ、湯を沸かし、買いだめしたコーヒーを淹れて独りそれを堪能していたが、いい加減陽も高くなってきた。
 セフィロスは寝台まで歩み寄って、毛布の山へ手をかけ、揺さぶった。
「クラウド。もう昼になるぞ」
 毛布をめくって覗き見た彼の寝姿は、至って普通である。
「ただの幼児退行か?」
 しかしセフィロスが隣にいなければ、他の何かを口に含むくせがある訳でもないようだ。


 アイシクルエリアの昼は短い。
 昔のような異常気象はなくなったし、短い夏には雪解けも来る。だが秋口になればもう暖炉に火は必要だし、人家の少ない土地では夕刻には指先も見えない暗闇に包まれる。
 こんな不便と思われる場所も、かつて厄災の彗星を呼んだ世紀の悪人であるセフィロスには気楽な住処だった。クラウドはもともと北国生まれで極寒の中で暮らすことには慣れていた。
 それに、共に生きるようになるまで辛い時間を過ごさねばならなかった二人で生活することは、小さく、平穏な暮らしにこそ幸福感があった。
 昼間に二人で狩った獣の干し肉を入れた料理と樽で買い込んだ苦味の強いぶどう酒で腹ごしらえをしたら、本を読むくらいしかすることはない。
 自然と近寄る肌、それに戯れに触れ、甘い気分に浸ることも少なくなかった。
 この晩も暖炉の前に敷いた毛皮の上で他愛のない話をしている内に、なんとなくそんな気分は盛り上がり、いつしか服を脱がせ合っていた。
「なあ、ここで?」
 何を今更と口にする代わりに、身を起こそうとした彼の身体を押し返し、掴んだ手首を毛皮の上へ縫い止めた。
 この近辺に出没するモンスターの毛皮を乱雑に数羽分繋ぎ合わせただけのものだが、色も白く、柔らかいそれに素肌が触れるのを、青年が嫌いでないことをセフィロスは知っている。夏の間に少し日に焼けた肌が、暖炉で燃える薪に火影を作って淫らな気分を増長させた。
 手首を押さえたままじっと見下ろす。
 見据える視線に戸惑い、未だ時折恥らう青年は、セフィロスの目に愛らしく映る。
 だが、肩から流れた髪が青年の周囲に目隠しを作ると、接吻は激しいものになった。
 彼が好む場所へ舌と唇で愛撫を与え、自分から求めるようになるまで根気よく続けるのも、セフィロスには楽しくさえある。もう何度も肌を合わせ、行為に慣れているにも関わらず、青年はそれを甘受することに恥辱を感じている。
 彼が間違いなく漢であり、その本質が、他に勝利することを誇りとする戦士だからだろう。
 時折それを無理矢理剥ぎ取って、自ずと受け入れる姿を見たくなる。
 それは、セフィロスもまた戦士であるからだと思う。
 立場の柵も、誰の邪魔も入らない場所での、あの対決とどこか似かよった充足感をセフィロスは彼を攻略するたびに感じていた。
 あの時と同じように理性を捨て、獣の性で求め、求められたい。
 セフィロスはその為に復活したと言っても過言でない。
 求めろと口に出して言えば彼は激しく怒り、臍を曲げてしまうだろうけれど。
 立場を見つめ直す冷静な思考を続けるのは、そうしなければセフィロスの方が折れてしまいそうに、彼の仕草や声に煽られるからだった。
 堪らずに上げる顎、柔らかい咽喉、浮き出た繊細な鎖骨、柔軟な筋肉に覆われた肩や胸、桜に似た淡い唇は吸われて潤み、今まさに散らんとばかりに赤みを増して。
 セフィロスは結局根負けして、多少強引に長い両足を持ち上げ、それを肩へ担ぎ、狭間へ己の情熱を触れさせた。
 早く青年の中へ入りたいのだと彼へ伝える。
 身を竦めるような痙攣で、彼もまた迎え入れるつもりがあるのだと示して来た。
 欲情は唐突に湧き上がり、二人は素直にそれに従う。
 野生の獣のように、原始的な生活に似合いの欲求に、共に平伏すことは心地よかった。


 浅く息を吐く唇を軽く立てた歯で噛む。
 唾液で潤したそれがセフィロスの名を呟く。それだけで逆らい難い誘惑だった。
 同時に故意に締め付けられて、セフィロスは低い声を洩らした。
「誘うことを覚えたか」
「馬鹿、あんたが…」
「オレが?」
「あんたが、教えたくせに」
 噛み付き返してくる歯は小さく尖っている。調子に乗ってやりあっている内に、口内に微かな血の味がして、互いに苦笑を洩らす。
 まだ余裕があるのか、しっかりとセフィロスへ巻きつく足が、その腰や尻を撫でるように動いて、
「もっと。」
 促す表情は、子供が親へスキンシップを求めるのに似た純粋さであるのに、セフィロスを繋ぎ止める部分は熟女のように貧欲だった。理性が支配する領域を越えた途端、この青年はセフィロスを誘う術を思い出すのか。
「もっと、なんだ」
 訊かずとも分かる答えを促しながら、浅く緩く。
「ずるい」
 弱々しく抗議して目を閉じ、囁くような小声で要望を口にする。
「いい子だ」
 突然限界まで侵入すると圧迫感があるのか、それに勝る快楽からか、青年はより高い悲鳴を吐いて背筋を強張らせた。ひきつる内腿を撫でさすり、それでも抉る動きは止めない。
 なにより彼がそう望んでいるから。
 セフィロスもまた、それを渇望するから。
 短く断続的に喘ぐ声は耳に心地よく、あさましく彼の内部を擦り立てるセフィロスへも刺激を与える。男の動きに合わせて声を上げているのか、青年の声に合わせて動いているのか、次第に判別がつかなくなる。
 朦朧と潤んだ目で見上げる彼は片腕を挙げ、掴んだ銀髪を引いて、セフィロスの唇を貪った。奪い返す唇は襲い来る感覚に戦慄いていた。
 二人の唇や舌の間には何もありはしないが、乾いたサバンナで獣が水をすすり合うようだ。
 接吻を止め、足を抱え直して容赦なく、深く突き上げることに従事する。
 動きに合わせて、クラウドの身体に流れ落ちた自分の髪が揺れ、その肌を撫でた。過敏になった肌はそれだけでなんらかの感触を与えるのだろう、上肢をよじり、一房髪を握り締めたままの拳を口元にあて、その指を噛む。
「いい。ねえ、いいよ」
 素直に喜ぶ姿に薄い笑みが洩れた。
 笑われていると思ったのか、クラウドは男の視線から逃れて目を閉じ、手にしたセフィロスの髪を噛んだ。
「おい」
 放させようと軽く引いてもクラウドは男の髪をくわえたまま、
「いやだ。」
 くぐもった声がセフィロスを止めた。
「離れるなよ…もっと、近く」
 駄々を捏ねる様はやはり子供のようだったが、セフィロスは上肢を倒して、顔をより近づけた。唇が触れあうほど近く。
「これでいいのか」
 薄目を開けて数度も頷いたのを確認してから、セフィロスも己の欲望を追求することにする。
 クラウドの口から洩れる言葉は、もう何を意味するものか分からない。ただ小さく、何度も言い募る言葉が朦朧とし始めたセフィロスの記憶にしがみ付いていた。

「もっと、近くに」

 彼と一体となる幻想は、何年経ても再び甘くセフィロスを誘う。
 その蜜に溺れたなら、男はもう一度この世界を滅ぼすかもしれない。そして男へ蜜を運ぶこの生き物は、力に満たされた男の躯を貪り、美しく禍々しい成虫へと転化するのかもしれない。その姿を見てみたいと思うのもまた逆らいがたい誘惑で。
 だがいずれにしても、ただの幻想だ。
 セフィロスにとっては、今現実に抱き寄せる肢体の暖かさを感じる方が、何よりも幸福である。

03.07.10(了)
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