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黒き巨獣の幻影・外伝

 その山小屋は、かつて大空洞の頂上を目指す登山家たちの拠点であった。今は絶壁に挑む者もなく、小屋はくすんだ木材の外壁を晒して、ひっそりとたたずんでいる。
 だが、もし数百年も生きている者が見たとしたら、一度は建て替えられ、僅かずつ誰かの手によって修復されることで姿を保っていると気付いただろう。
 日が沈み、フクロウの声が木霊し、獣の遠吠えが聞こえる森から大空洞の絶壁へ向かう途中の登山道は、春に芽吹いた下草に覆われて道が判別しにくくなっていた。真冬になれば一面雪が被って、道はもっと判らなくなる。
 その、静かな麓に、獣とは異なる声が微かに響いた。
 小屋の煙突から煙が上がっているのも珍しいことだ。一つだけある、埃に曇った窓ガラスからは、揺れる炎の灯りが漏れていた。



 部屋を区切る壁もない狭い小屋の内部には、立ち寄る者が生活できる程度の家財が備えられている。
 薪を割るためのまさかり、獣を捌く刃物、火掻棒、金属製の鍋や食器、古びてはいるが手作りの小さなテーブルや毛皮の敷物。現代的な生活は望めなくとも、遭難した人間が飛び込むのには十分である。
 とはいっても、大きいとは言えない軋む寝台は、二人の人間の重みに今にも崩壊してしまいそうだった。
 都会であれば疾うに破棄されているだろう薄汚れたマットに、辛うじてシーツ代わりの布を敷き、そこに仰向けに寝たまま見上げてくる男は、寝台が力尽きるとは考えていないようだ。
 青年は、羨むくらいに厚い男の胸に両手をついて、割れた腹の窪みや小さな乳首を時折弄る以外は、跨いだ強靱な腰の上で踊るように自らの身体を動かすことに集中している。
 下から抉り上げるものを受け入れる抵抗は既になく、滑らかな動きで行き来し、青年の身体を内も外も知り尽くした腕が、より感じる場所に導く。
「セフィロス」
 男はそうやって名を呼ばれることが好きだ。満足そうに薄く笑むセフィロスの唇を見下ろして、青年は肉体の快楽以上の充足を得る。
 自分の名を呼び返してくれるまで、幾度も囁きかけ、置いた尻を激しく前後に揺らした。
「クラウド」
 これ以上にないほど優しい声でクラウドを呼び、下から伸べた指先で、鎖骨や胸、身体の中央にある幾つかの傷痕を労るように撫で、敏感になった乳首を摘んだ。もう片方の手は男と同じクラウドの雄の象徴に添え、自身の腹との間に擦りつけて。
 直ぐにでも達してしまいたい誘惑と、この熱く心地よい行為を続けたい欲求に翻弄される。
「まだ。まだ、だってば」
 続行を強請る声に、男は我慢できるなら、と視線だけで告げる。
 彼には残っているらしい余裕に少し腹を立て、きつく締め付けて動きを早めると、皮肉にも己の方が墜落してしまいそうになった。持ち上げた指先を慌てて噛みしめ、微かな痛みに絶頂が遠のくのを待つ。
 クラウドの様子に低く笑い声を立てて、上肢を起こしたセフィロスは、膝の上に青年を抱えるように姿勢を変える。侵入が浅くなり、少しだけ余裕の生まれたクラウドは、溜めていた息を吐きながら男の肩へ戦慄く顎を預けた。
 薄い涙に滲む視界に、小屋の小さな窓が見えた。
 夜も更けた外の風景は見えないが、ガラスのすぐ向こうに何かを見つけ、クラウドは硬直する。
 目だった。
 それもクラウドの顔ほどもありそうな、巨大で、ぎらぎらと光を帯びた黄色い目がひとつ。
 ひっと音を立てて息を飲んだクラウドに気付いたはずのセフィロスは、何故か動きを止めない。
「何かいる」
「放っておけ」
 セフィロスは随分前にそれの存在に気付いていたらしい。驚きに少し萎えたクラウドの陰茎へ愛撫を加えながら、性急に突き上げて高める動きに、無意識に身体が反った。
『またか。相変わらずだな、二人とも』
 小屋の外から響いた地鳴りのような太い声には、聞き覚えがあった。
「シン、リュウ……?」
「集中しろ」
 一時は母と呼ばれたクラウドの子竜なのかどうか確かめる前に、セフィロスはこの行為を終わらせたいらしい。
「もう、なんで!」
「終わったら、あれに聞け」
「や、だって、ば」
 言葉で抗議しても、強い刺激がクラウドの腰を自然と蠢かせる。
 身体の中で顕著に終息を訴える男を、受け入れようと全身が震える。
「駄々をこねるな。それとも、よくないのか」
 耳元で吐息と共に吹きかけられた囁きに、萎えかけたそれが力を取り戻す。
「いい。気持ち、いい」
 せめてもの視線から顔を反らして、男の肩口に埋め、くぐもった小さな声で告白した。



 暖炉の前の敷物に寝転がったクラウドは、酷く立腹していた。
 赤く燃える炎が薄いシャツだけを羽織った身に暖かく、行為にほんの少し疲れたけだるさも悪い感じではない。
 だがベッドに座るセフィロスと、開いた戸口から首だけ室内に突っ込んだ竜は、ぴりぴりとクラウドの全身から発される不機嫌なオーラに、声を掛ける意欲を削がれているようだった。
「何しに来たんだよ」
 クラウドを母と崇める真竜にとって、不機嫌極まりない音声だけで、その巨大な体躯を竦めるに十分な理由であろう。半眼に閉じた目を助けを求めるようにセフィロスへ向けるが、至極優しくない『父』は助言する気もないようだった。
『……母に会いに来た』
 ぼそりと呟いた音が微かに動く竜の口元から漏れる。
 思えば、クラウドが彼とこの先のアイシクルロッジ辺りで別れて以来、再会はニ年ぶり近い。あえて会う必要も感じなかったが、遠目に飛竜を見つけたりすると、不思議と懐かしく思う事があった。
 真竜の身体は以前よりも更に大きく、既に成竜と変わらないか、それ以上になっている。目の色もかなり黄色みが強く、身体全体を覆う鱗は、黒竜と呼ぶのが相応しい見事な鋼鉄の漆黒になっていた。
 初めて彼の口から人語を聴いたのは、まだ体長が五メートルほどの頃だ。
 もっと小さな頃から理解していたのだとセフィロスから聞かされたのは、ずっと後になってからで、獣と同じ扱いでいたクラウドは、散々彼の前でセフィロスと抱き合ったり、接吻していた。身体が子供だったとはいえ、知能は成人並の真竜の前で熱烈に抱擁していた事実に、クラウドは赤面するどころではなかった。
 しかも心も体も大人になった真竜に、今度は真っ最中を見られたと思うと、相手が人外とはいえ当たり散らしたくもなる。
『どうして母はこれほど機嫌を損ねているんだ?』
「オレに聞くな」
「あのねえ!」
 半身を起こしたクラウドは、怯えた目で見つめてくる巨大なそれを正面から睨み付け、怒鳴った。
「お前には判らないかもしれないけど、人間はセックスしてるとこなんて、他人には見られたくないんだよ!」
『セックスとは交尾のことか?』
「こ、交尾って言うな!バカ!」
 手元にあったブーツを投げつけたが、あえなく巨大な口でキャッチされた。余計に腹が立って背を向けたクラウドに、セフィロスまでが溜息をつく始末である。
 暫く続いた沈黙を割ったのは、クラウドのブーツを銜えたままのくぐもった真竜の声だった。
『ごめんなさい』
 うっかり視線を向けた先で項垂れた真竜は、巨大な牙の並ぶ口に小さく見えるブーツのつま先を、痕が付かないようそっと銜えている。
 出会った頃、まだ肉を噛み裂けない小さな歯で、そうやってクラウドのブーツやセフィロスのコートにじゃれついていた姿が思い出された。
 しかもわびる言葉遣いまで子供のようだった。
「ああ! もう!」
 クラウドは飛び起きて、戸口の真竜に歩み寄り、以前より広くなった額にもたれかかって抱きついた。
「もういいよ。……元気だったのか?」
 小さく頭を揺すって頷き、銜えていたブーツを床へ落とすと、甘えるように鼻を鳴らした。
『母も、健勝でなによりだ』
 相変わらず言葉遣いは老人のようなのに、その視線も声も、まるで別れた時のままだった。


 もう体長は二十メートル近いシンリュウは、扉を開け放した小屋の戸口から、首の半ばまでを室内に入れるのが精一杯である。
 初夏とはいえ夜になると流石に冷え込むので、首の上にできる戸口の隙間を、垂れ幕のようにした毛布で塞いだ。その姿は犬猫用の通用口から顔を出す、犬猫そのものだった。
 クラウドはシンリュウへそう告げて笑ったが、彼は無論そんなものを見たこともないらしい。
 手土産だと言って、シンリュウが咥えてきたウサギを数羽調理しながら、暖炉の前で二人と一匹は暫く近況を報告し合っていた。
 彼は二人から巣立った後、あの洞穴を住処にして暮らしていたらしい。主に大空洞の近隣をなわばりに、遠くはサボテンアイランド、北の海を越えてウータイやミディールの辺境まで足を伸ばしているという。
『冬場はミディールで暮らしている。ここは寒いからな』
「寒いのは苦手なのか」
『冬場のこの界隈は獲物が少ないのと……どうも、寒いと昔を思い出すから好きになれない』
 憮然とのたまう姿は笑いを誘った。
 そしてシンリュウの狩ってきたウサギの煮込みが出来上がり、奇妙な晩餐が始まった。
 クラウドはセフィロスと並んで戸口に座り込み、煮込みを食べ、シンリュウはクラウドらが持ち込んだ葡萄酒の匂いに興味を惹かれたらしく、開けてやった樽に鼻先を突っ込んで、ちびちびと舐めている。人間のように顔を赤くして酔ったりはしないが、樽が半分ほどになると瞼が落ちかかっていた。
 味は気に入ったようだ。
『実は、相談があって来た』
 人間に例えれば、酒で口が軽くなったのだろうか。
 頷いて先を促すクラウドを他所に、セフィロスは先ほどから一言も発することなく、無言で食事の皿を片付け、代わりに蒸留酒の瓶と金属のカップを持ってきた。
『母たちは北東の果てにある丸い島を知っているか』
「ラウンドアイランドかな」
『島の名は知らない。全体が深い森になっている。今年の春、あそこで雌の飛竜を見つけた』
 ラウンドアイランドは周囲が絶壁に囲まれ、船で接岸することも、飛空挺や飛行機で着陸もできない。クラウドらが行くとしたら海チョコボが最も楽な方法だろう。
 中央の盆地の森は深く、シンリュウの言うように飛竜などの大型の獣やモンスターが多く生息している。
「雌って……シンリュウは雌雄の区別はできるんだ?」
『匂いで。これまでも飛竜に遭遇したことはあるが、遠目で雌と分かったのは初めてだった』
 シンリュウがそう答えた途端、セフィロスがふっと鼻で笑いを漏らした。
『なんだ』
「発情期だったんだろう。その雌の竜もそうだろうが、お前の身体が大人になったということだ」
 葡萄酒をもう一度ひと舐めして、シンリュウは深慮する顔つきになる。
『……我輩はもう繁殖活動ができるんだろうか』
 いきなり呟かれたシンリュウの疑問に、クラウドは口にしていた蒸留酒を吹き出した。
 何故か今日は交尾だのセックスだの、そんな話ばかりしているような気がした。この話題の流れでいくと、自分たちはシンリュウへ性教育をする必要があるのかもしれない。
 視線でセフィロスに助けを求めた。
 こういったことは彼に任せる方がいい。ただでさえ、クラウドは説明が苦手だ。こういう話は本来『母』ではなく『父』の役目だろう。
 セフィロスはクラウドの視線を無表情で受け、暫くすると口を開いた。
「竜がどれだけで成竜になるかは知らない。だが哺乳類などは生後一年半もすれば、生殖器は成熟するな。人間でも十代初めになれば普通は精通する」
『そうなのか』
 ごく真面目にセフィロスの話へ耳を傾ける姿が、クラウドには滑稽に見えて仕方が無い。無論笑いはこらえた。
 クラウドたち人間に育てられたせいか、この竜は巨大な体躯をしても妙に人っぽいところがある。
『なんと言うか、こう……やり方が分からないんだが。母は教えてくれないのか』
「は?」
『母は、竜がどうやって交尾するか知らないか?』
 クラウドは絶句した。
 竜の交尾の仕方など、クラウドが知っているはずはない。普通獣はそういう行為を本能で行うものだという認識がある。家畜でも、野生動物でも、モンスターでも同じことだ。
 固まったクラウドを見て、セフィロスは今度は声を立てて笑った。髪をかき回すように撫でられ、せめてもの睨み返そうとした視線が柔らかな表情に出会い、力を失ってしまった。
「オレに聞くなよ……」
 シンリュウは興味津々な視線を二人の育て親に向けている。
『母たちの交尾を見ていても、わからない。身体の構造が余りに違うから』
「お前、だから覗いてたんだな」
 再び怒りを思い起こしたクラウドの目線を、シンリュウは顔を背けて避けた。
「クラウド。そう怒るな」
 セフィロスはまだ笑っている。
「お前、初めて言葉を喋ったころに、オレに聞いたな。なぜオレがクラウドと交尾するか、と」
「そんなこと聞いたのかよ!」
 思わず掴みかかりそうになったクラウドを、背後から抱き寄せて止め、セフィロスが続けた。
「オレたちの行為が、お前の言う『交尾』だと分かったということは、お前は知ってるはずだ。その方法も」
 服の上からセフィロスの手に優しく撫でられ、クラウドは思わず怒りを忘れてしまった。
「獣は普通、本能でそれを知っている。繁殖できる体になったかも、その方法も、雌の気を惹く方法も、な」
『我輩は……なぜそれを知らないんだ?』
「知らないんじゃない。忘れているんだろう。お前は、普通の獣にない理性を持っているからな。人間のように」
「理性?」
 問い返したのは、シンリュウではなくクラウドだ。
「そうだ。獣は本能に従って生活しているが、生命に関わる状態になれば理性が働くこともある。だが、人間が信念のために絶食したり、他人の目を気にして雌との交尾を諦めるのは、知能が高く、理性が強いからだ。その反面、身体が成熟していなくても方法さえ分かれば、性交を試そうとしたりもするな」
「あんた……まだ童貞だったオレを抱いたもんな……」
 睨み付けたクラウドへセフィロスは苦笑で返す。
「昔の話をして困らせるな。……とにかく、お前がその雌竜に惹かれるならば、理性を捨てることだな。本能が相手を求めるのなら、本能に従って口説いてみろ」
『口説く、とは?』
「お前たち、竜の間で交わされる言葉で、囁けばいい」
 セフィロスは背後からクラウドへ廻した腕の力を強め、肩越しに載せた顎で髪を掻き分けた。
「こうして」
 熱い吐息に身を竦ませたクラウドを抑え込み、耳朶に向って囁いた。
「『お前が欲しい』、とな」
「うわ」
 気味悪いと言いそうになった声を押し留めた。そんなことを告げた途端に、セフィロスは調子に乗ってもっとやろうとするだろう。
『我輩には二人のような腕がないんだが』
「手など必要ない」
 即刻逃げ出したい気持ちで、必死に身体を捩るクラウドの首筋に、セフィロスはいきなり噛み付いた。
「こ、こら」
「傷つけたら逃げられるぞ。雌には優しく、時には強引に、というのが獣の求愛の基本だ」
『なるほど』
「セフィロス!」
 シンリュウは至って真剣な顔つきで、しかもセフィロスの講義に大層感心した風である。しかしクラウドの方は、そのままもつれこんで押し倒されそうな感触に、必死で抵抗していた。
 噛み付いた歯の間から舌が首筋を這い上がり、耳朶を舐め、もう一度優しく歯を立てる。いつのまにか服の裾から入りこんだ手が、胸や臍を撫で始めた。
「やめろってば! セフィロス!」
「雌の喜ぶ場所を見つけたら、こうして攻め落とす」
「喜んでない! しかもオレは雌じゃない!」
 暴れて逃れそうになった腕を掴まれ、もう一度引き寄せられた。
『逃げそうになったら?』
「退路を塞いで、逃がさない気合いを見せろ。そうだな。お前の立派な翼や尾を見せてやるのもいいかもしれん。自分と交尾すれば強い子が産まれると、雌をその気にさせろ」
『我輩がその雌に相応しいと思わせればいいんだな』
「そうだ」
「オレは子供なんて産めないぞ!」
 大きな身体に下敷きにされ、下肢の抵抗を封じられたクラウドは、仰向いた状態で怒鳴った。
「オレは子供が欲しい訳じゃない。お前と繋がりたいだけだ」
「ちょ、っと……待て」
 少し固く変化した場所を押し付けられて、クラウドは思わず全身を震わせた。繋がりたい、という欲求はクラウドと同じで、ましてや同性同士でセックスする意味はそこにしかないと言ってもいい。
 腕を拘束していた指が這い、床の上でそれを絡ませ合う行為も、どこか性交と似通っていて。
『受け入れられたら、どうする』
「相手が求めるものを、お前が求める場所に」
 言い終えた唇がクラウドのそれを塞ぎ、いきなり激しく貪られた。
 求める場所―――熱い口内は微かに蒸留酒の味がして、急激に回った酔いにクラウドは理性を失いそうになった。自分の理性の壁はこんなに脆かっただろうか、と考えたのを最後に慣れた感触の腕の中で力を抜いた。
『それは、そうやって「乗ってもいい」ということか』
「雌の竜のことをオレに聞いても知らない。本能に従えと言っただろう」
 セフィロスの言葉はシンリュウに対してのものかもしれないが、クラウドは己へ言われているようにも思った。
 自分にはセフィロスと同じものが体内に存在することを思い出す。
 呼び合う細胞、等しく過ごした時間、共有した感情、どれもが再び寄り添うことを望むようで。雄と雌のように、繁殖の本能が互いを接近させるのでなければ、そんなものが二人を傍近くに呼び寄せるのだろうか。
 すっかり抵抗をやめてしまったクラウドを見下ろして、セフィロスは満足そうに笑った。皮肉でない彼の笑顔は、雌の匂いよりも強烈な引力でクラウドを惹きつけた。
「そんなに思惑通り蕩(とろ)けてしまっては、中断できないだろう。クラウド」
 降りかかる長い髪が頬を滑り落ちて、思わず伸ばした腕でその頭を引き寄せた。
「シンリュウ。遠慮して」
『承知した』
 見えない場所で、戸口から首を退く気配があった。鼻先で器用に扉を閉める音がした途端、圧し掛かる男と唇を合わせてひとしきり吸い合い、溢れる唾液を飲み下す。
「おい」
 セフィロスはクラウドの着衣を剥ぎ取りながら、まだ扉の外にいるだろう竜を呼び止めた。
『なんだ?』
「その雌を手に入れ、子を得たなら、彼らに望まれる限りお前が守れ。知能のあるお前ならできるだろう」
『承知している』
 生まれたままの姿に互いを剥き、触れ合う肌に充足の吐息をついたころ、少し離れた場所からシンリュウの羽ばたきが聞こえた。
『以前、お前から学んだからな。父よ』
 間近にある端正な顔が複雑に歪むのが分かった。
 相変わらず、そう呼ばれるのは嫌悪感があるらしい。
「笑うな」
「立派すぎる親父だな。セフィロス」
「小癪なことを言う」
 意趣返しに弱い場所を撫でられ、次第に酩酊する意識の端で、大きな羽ばたきが屋根を越えていった。
『葡萄酒は美味だった。また来る』
 この夏の終わりには、あの小さかったシンリュウも伴侶と家族を得るのだろうか。
 だとしたら、クラウドたちの行為も、全く何も生み出さない訳ではなかったと思えるような気がした。

 春に芽吹いた草木が伸び、獣たちの恋が成就して、賑やかで短い北の大地の夏はこれからやってくる。

05.11.18(了)
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【FF7 TOP】
※ここでご紹介するものはゲーム本編とは全く関係のない、個人の趣味と空想に基づくストーリーです。スクエアエニックス社の権利を侵害する目的のものではありません。
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