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ダーカー・ザン・ブラック
Darker than Black


 小高い丘の上から見下ろす街は、古(いにしえ)の竜が横たわる道に貝殻の形状をした家並が続く。
  以前、凍り付いたように時間を止めていた街中の空気はいつからか流れ、竜の骨には空洞が目立ち、螺旋の美しい家の屋根も崩れ、そこかしこが風化を始めている。かつてこの忘らるる都に留まっていた古代種たちの祈りが、効力を失いつつあるようだ。
  古代種の最後の生き残りだった少女を、セフィロスはここで殺め、種族は絶えた。
  街を守る者と、街が守る者がいなくなれば、消えゆくのが運命だろう。崩れる道や建物、半化石化した木々を燃えるような夕陽が照らしている。
  骨の道を抜け、高い切り通しを過ぎると、建物が無くなり長い化石の森が続く。
  元々魔晄の豊潤な土地柄だからだろうか、硬化した木々の表皮が変化し、幹の内部を巡るライフストリームが透けている。魔晄泉にあるような緑色ではなく、もっと純度が低く穏やかな、白く優しい光だった。
  道標のように明るい木の立ち並ぶ森を抜けると、突き当たりにひときわ大きな家が見えた。薄く青みを帯びた巻き貝の屋根を持つ家まで、まっすぐに伸びる道を進む。
  セフィロスの記憶にある限り、あの家の地下には隠された祭壇があり、その昔古代種たちが星との対話を交わしていた。そこへ向かうかと思われた連れの青年は、家のすぐ手前、静かに水をたたえる泉のほとりで足を止めた。魔晄が薄く溶けた泉には、晴れた夜空を見上げるように無数の光り輝く粒が漂っていた。
  数十年の間、セフィロスを伴っては絶対にこの街へ足を踏み入れようとしなかった青年が、先日揺るぎのない眼で男を見つめ、忘らるる都へ行きたいと口にした。
  セフィロスが絶望の果てに見た狂気の中で、刃(やいば)を突き立てた少女は、青年の愛した娘でもあった。
  手を下したセフィロスを目の前にして、かつては酷く詰りもした事実を、いつからかクラウドは一切口にしなくなった。そして半世紀近くの年月を共に過ごしていながら、少女を守れなかったと悔やみ、苦悩し、罪の意識をずっと抱き続けているのはクラウドの方だった。
  なぜ、お前が負うべきものだとセフィロスを責めなくなったのか。
  問うてみたくもあり、その問いをセフィロスが口にすることを、彼は無言の内に許さなかったような気もする。
  泉の浅瀬に旅装のまま入り込んだ青年は、深みの手前で足を止めると、背負った荷物の中から摘んできた小さな花束を取り出した。細かい花が房になった枝を泉の水面に浮かべると、しばらくして気泡を放ちながら沈む。
  少女が約束の地へ旅立って、恐らく今日で五十年。
  彼女の敵(かたき)と共に過ごした歳月をどう思っているのか、青年はしばらくその場から動かず、ただじっと、昔と寸分変わらぬ姿を映す、鏡のような水面を見つめていた。

 辛うじてクラウドの姿が見える場所で佇んでいたセフィロスの元へ、彼が戻って来た時には、東の空に顔を覗かせた月が、木々の間に奇妙なほど大きく、赤く見えていた。
  それを横目に元来た道を戻り、深い眠りの森を抜け、日付が変わるころには、昼過ぎに出たばかりの小さな村へ帰って来た。
  村はボーンビレッジと呼ばれている。
  昔は化石の発掘が盛んに行われていた村で、村の名の由来でもある。今は調査隊が訪れることもなく、時折物好きな観光客が発掘旅行と称して海岸沿いの土を掘り返していくだけだった。村の端には観光客向けに建てられた宿が二軒だけ、それも今では随分空室が目立つ。
  一昨日からセフィロスたちがとっていた部屋は森に最も近い、棟の一番端だった。忘らるる都とは異なり、未だに人を寄せ付けないうっそうとした森が迫る部屋は薄暗く、特にその部屋は人気(にんき)がないと云った宿の親爺の言葉も頷ける。だが人目を避けて生活しているセフィロスたちにとっては、格好の場所だ。
  無言で部屋へと入って行くクラウドの背は疲れた様子で、泉で濡れた下肢の衣服もまだ乾ききってはいなかった。秋口とはいえ、とうに残暑は去っていて、お世辞にも濡れた服が心地よいはずもない。
「風呂を使う」
  クラウドは小さな声で告げると、背中の剥き身の剣だけを部屋に下ろして、奥のバスルームへと入っていった。
  鈍い光を放つ大剣の横に自分の刀を立て、セフィロスはまだ灯りも点けていない部屋の中でコートを脱ぎ、寝室のベッドの上へ放り投げた。寝室の電気スタンドと、煉瓦積みの暖炉の上に置かれたオイルランプに火を入れ、その前に据えられた二人掛けの長椅子に座る。帆布のような目の詰まった布が張られた椅子は、掃除こそされているが古い。片方の肘掛けに背を預け、反対側へ足も乗せると少し軋んだ音を立てた。
  バスルームからは水音が聞こえて来た。
  セフィロスでは足が伸ばせないような小さなバスタブに、シャワーがついただけの狭いバスルームにはすぐに熱気が充満し、扉の隙間から白い湯気が細く立ち上ってくる。
  シャワーのお湯で冷えた身体は暖まるだろうが、流水では流せない気鬱もある。扉越しにも、それがセフィロスへひしひしと伝わってくる。
  かつて愛した少女を殺した男への怒りや、その男と共に過ごす矛盾と葛藤が、あの小さな頭と細い身体の中に渦巻いている。
  どうして男を詰り、声を荒げることで、ため込んだものを解消しようとしないのか。口に出しても晴れないものなのだろうか。
  薪さえ入れていない真っ暗な暖炉を注視しながら、考え事に没頭していたセフィロスは、ふとバスルームの水音が止まっていることに気付いた。
  窓へ寄ると、黒い山のように影になった森に隠れて、もう月は窺えなかった。ずいぶんと時間が経っているというのに、クラウドはまだバスルームから出てきていない。
「クラウド」
  扉の近くで声を掛け、ノックはせずに扉を押し開けた。
  新しい石鹸の匂いに、拭いきれない浴室のカビ臭さが混じっている。
  白いタイル貼りの床には脱いだ上着や剣のフォルダ、ベルトが点々と散らかり、正面の洗面台の中には水に濡れたままの靴下が放り込んであった。隣の便座の蓋の上には脱いだブーツが片方乗っており、もう片方は洗面台の下に転がっている。湿っぽいバスルームは思ったほど煙っておらず、洗面台の横についた電球が、上半分だけ曇った鏡と、壁についた僅かな水滴を反射していた。
  左手のバスタブの中に浸かったクラウドは、視線だけをセフィロスの方へと向けた。
  軽く膝を曲げるとクラウドであれば身体を横たえられるらしい。彼の細長い首の半ばまで目一杯に張ったお湯は、全く湯気が立っておらず、すっかり冷めてしまっているようだった。
  禊(みそ)ぎのように水に浸かる姿は、先程の泉で佇む青年を思い出させる。
「いつまで入っているつもりだ」
「うん」
  全く問いに見合わない返答の後、ゆっくりと立ち上がった。湯の温度が低いからか、肌は赤みも帯びておらず、ただ水分を含んで幾分白っぽく見えた。
「あんたも入る?」
  問いながら裸の背を向けて、バスタブの栓を抜く。低い音を立てて、勢いよくお湯が流れて行った。
「後で」
  クラウドはタオルを頭に被り、足元に放り出した服を一枚ずつ拾い上げ、濡れた身体のままバスルームを出る。
  身体から滴る水がぴちゃぴちゃと音を立て、冷たいタイルの上に足跡が残る。足跡は真っ直ぐ、隣の寝室へと続いた。
  リビングルームから両開きの扉で仕切られた寝室には、唯一リゾート目的でこの宿が造られたことを感じさせる、大きめのベッドが二つ並んでいる。その片方へ濡れた衣服を投げ出したクラウドは、頭にかぶっていたタオルで髪を拭き始めた。
  黙々と身体を拭って動く白い背を、セフィロスは無言で注視する。背に視線を感じたのだろうクラウドは、身体を拭き終えてから振り返った。
  開いた両扉の縁についていたセフィロスの手を見上げながら、なんだよ、と不機嫌そうに呟いた。
「お前は、あの泉へオレを連れていって何をさせたかった」
  セフィロスの問いに、クラウドは表情を消した。セフィロスがバスルームを覗き込んでからずっと、そんな表情を通している。機嫌の悪い顔でもない、思い詰めた表情でもない、ただ感情を読まれまいと装う顔だ。
「別に。あんたを一人にするのが心配だっただけだ」
  嘘だ、とセフィロスは否定しなかった。
「今までにも、お前は独りで幾度となくあの泉を訪れているだろう」
  その度に、セフィロスを古代種の都の外へ置いて行った。
  言外の問いには答えたくなかったのか、口を噤(つぐ)んで顔を背けた。まるで閉じた二枚貝の如く黙り込み、目さえ閉じようとしたクラウドを見て、セフィロスは憤りではない衝動で指先を動かしていた。
  伸ばした右手で尖った顎の先を掴む。抵抗を感じながら、強い力で自分の方へ向けさせると、クラウドは微かに苦悩を滲ませた表情でセフィロスを睨み付けた。
  それが乱暴な扱いへの抵抗だけだったら、セフィロスはそのまま手を放したかもしれない。だが、視線からは先程の答えが読みとれた。『やはり彼女の眠る場所へあんたを連れていけるものか』と。
「なぜ黙っている」
  かつてないほど苛立ちが募った。
「お前の苛立ちをひしひしと感じながら、それを見て見ぬ振りをするのがオレの罰だというのか」
「罰?」
  顎を掴んだ手を、叩くように払われた。
「あんたは彼女を殺したことを悪いとなんて思ってないだろう」
  答えるべきかどうか、セフィロスは一瞬だけ躊躇った。
  真意を告げれば、恐らくクラウドは酷く怒るに違いなかった。そして一層自分の責任だと罪の意識を強くするだろう。
「ああ」
  予想どおり細い眉が顰められ、眉尻が跳ね上がる。
「苦しむお前を不憫と思うことはある」
  だが、娘を殺したことには欠片も後悔はない。
  言葉にしなくてもそれは伝わったのだろう。
  怒りの視線を向けられながら、セフィロスはそれこそがクラウドの本心だと確信した。憎しみに引き結ばれる唇に、セフィロスは笑い出したくなるような感情さえ芽生えた。
「オレが憎いか」
  クラウドの湿った髪を見下ろしながら、後ろ手に対の扉を閉めた。物音ひとつない静かな宵に、驚く程大きく反響する。
  不穏な空気を感じ取ったのか、クラウドは少しだけ怯んだ顔つきになった。
「お前の憎しみは、オレにはいっそ心地良い」
  筋張った首もとに片手を伸ばし、絞めるほどの力は入れずに後ろへ押す。
  カバーを掛けたままのベッドの上でバウンドしたクラウドは、意図を察して慌てて逃げ出そうとするが、首を抑えられると横へ転がることも、起きあがることも出来ず、足掻(あが)いた。
「セ、フィロス」
「なんだ」
  裸の足を跨いでベッドへ乗り上げ、滑らかな首筋を撫でるように指を這わせた。
「今日は、嫌だ」
  セフィロスを煽るまいと努めて静かな声で告げたクラウドへ、いっそ優しい笑みを浮かべる。
「何がだ」
「そんな、気分じゃない」
「そうか。ではお前は眠っていても構わん」
  首をやんわりと押さえた手は外さず、目の前の鎖骨から乳首へ唇で触れる。案の定、湯が冷めていたのだろう、肌はすっかり冷えて、セフィロスの唇の方が暖かいくらいだった。
「やめろ」
  上目遣いで、真上を向いたままのクラウドを窺い、唇の間に挟んだ乳首を吸い上げ、舌で押しつぶすように愛撫を始めると、ベッドに投げ出されていた腕が上がり、セフィロスの肩口を強い力で掴んだ。
  指先が食い込むほどの握力を感じて唇を離した。
「あの娘の命日か」
  呟きを聞いて、クラウドは全身を強ばらせた。
「分かってて……!」
  セフィロスを見上げる顔が、再び怒りに歪んだ。
「やはりそうか。では是が非でも犯す」
  怒りの形相が驚きに変わり、強ばった身体から一層血の気が失せた。
  クラウドは長い年月で理解している。
  こうして宣言したセフィロスは、必ず言葉通りにする。そしてそれらからクラウドは逃げられないことを、身をもって知っている。
  小さな絶望が大きな瞳に宿り、動揺が南の海を波立てた。
  セフィロスは目の前にある獲物へ、今弓を引こうとする狩人のように沸き立つ気持ちで再び唇を寄せた。
  物言いたげに薄く開いた唇へ口づけ、長い睫毛の先が微かに震えているのを間近で見入る。首を掴んでいた手を滑らせて湿った前髪をゆるく掴み、固定した小さな顔ごと貪るように、唇を噛む。滑り込ませた舌先で熱い舌を探しあて、飲みくだす勢いで吸い上げる。呻くように漏れた声も飲み込み、何度も角度を変えて激しい接吻を繰り返していると、次第に息が乱れ、抗議の唸り声が大きくなって来た。
「やめ、ろ!」
  唇が離れた瞬間、思わぬ大声で叫んだクラウドを見下ろし、掴み取った両手首を一つにまとめてベッドカバーの上に縫い止めた。
「も、ホントに、やめろって……」
  腕を拘束されて暴れる身体を片手と足で抑えこみ、ベッド横のサイドボードへ伸ばした片手で引き出しを探った。
  手に触れた小さな瓶はポーションのアンプルだった。昨今はあまり戦闘中に利用することもなく、むしろ潤滑剤として使うことの方が多い。何をするのかを気付いたクラウドが、口汚くセフィロスを罵る言葉を吐いた。
「くそ、この、変態野郎!」
  アンプルを口に銜え、足で抵抗を封じていた腿を掴み、片足を引き上げる。
「風呂上がりで幸いだ。服を剥ぎ取る手間が省けた」
  持ち上げた片足の足首を掴み、大きく開かせ、露わになった場所へポーションの中身を手探りで振り捲く。クラウドの腿と足の間を滴り、ベッドの上に溢れた薬品の、青草のような匂いが狭い寝室に満ちた。
「最低だ!」
  そう吐き捨てた後クラウドは大きく呻き、黙り込んだ。
  セフィロスの右手の中指は、半ばまで窪みに飲み込まれている。十分な滑りとは言い難かったが、これまで幾度となく交わした行為に慣れもある。
  弱い場所を的確に突かれ、歯を噛みしめるクラウドの声に、予想ほど肉体的な苦痛は感じられない。あるとすれば、拒絶しながら受け入れる肉体との矛盾に苦しむ、精神的な打撃だけだ。
  クラウドの顔を覗き込みながら、セフィロスは差し入れる指を増やし、機械的に広げる動きを繰り返した。指を前後させるたびに湿った音が立ち、それに合わせて上擦ったクラウドの声が漏れる。
「いい声だ」
  笑い混じりのセフィロスの声に、クラウドの喘ぐ声が止まる。
  嫌がらせで奥を探ると悲鳴が上がった。
  左手で掴んだ足は抵抗も殆どできず、指の動きに合わせて時折震えている。ベッドに投げ出した両手はカバーをきつく掴み、自由な左足は緊張して、キルト地に深い皺を作っていた。
  それでも快さを感じている身体は反応し、一切触れていない陰茎は微かに立ち上がり、淡い色の繁みの中で刺激を求めて緊張している。あえてそこには触れないように指を動かしている内に、荒くなった吐息には喘ぎと言葉にならない声が混じった。
「声を上げて。お前の本心を吐き出せ」
  間近に近寄せた額に額を押しつけて、潤んで細められた目を見つめる。
  苦しさと反する快楽に翻弄される瞳の奥には、確かにセフィロスへ対する憎しみや怒りが宿っているのに、一生言葉にはしないつもりなのだろうか。
  持ち上げたままのふくらはぎに軽く歯を立てて煽り、差し込んだ指先で促す。
「何が欲しい?」
  上目遣いでクラウドの表情を窺いながら、指を折り曲げて抉る。指の付け根をきつく締めつける入口とは対照的に、熱く柔らかい内臓が絡みつく指先に、一か所だけ固く押し返す場所がある。直接快楽へ繋がるその一点を集中的に押し上げて、食いしばった歯が解ける瞬間を待った。
「あ!」
  張り上げた声に合わせて突然全身を震わせ、背筋が跳ね上がる。
  両手でしがみついて来たクラウドは、冷え切っていた身体を薄い桃色に染めて、湿って項垂(うなだ)れた金の髪を男の胸元に押しつけた。
  子供が嫌々をするように頭を振り、見上げる大きな瞳は涙に潤み、縁取る睫毛はしっとりと濡れていた。
「前に触れて欲しいのか」
  耳元へ唇を寄せて囁く音量で問う。
  戸惑いながらも答えようと顔を上げて頷いたクラウドは、近くにいても聞こえないような小さな声で唇を動かした。
「触って」
  クラウドが雄であることを主張する陰茎に、声のような弱々しさで触れる。不満そうに眉根を寄せて、身を捩るのを、思わず笑みを浮かべて見やる。
  ベッドについたクラウドの右手を導いて、彼自身の陰茎を包み込み、その上からセフィロスの手を重ねて愛撫を促した。
「お前の好きなように」
  クラウドの躊躇を封じ込めるように、握り込んだ手ごと強くそこを扱くと、二人の手に包まれた茎が生き物のように跳ねた。
「喜んでいる。これには、今日が何の日でも関係ないらしい」
  セフィロスは低く笑い声を洩らして、クラウドを見下ろした。一瞬怒りの気配がクラウドから立ち上がるが、握り込んだ手の力を強め、速くすると、それは次第に遠のいていった。
  後ろに浅く差し入れたままの指の動きを再開させ、もう一方の手は時折クラウドの自慰を助けるように動かす。もう力をいれずともクラウドは己の手を止められなくなっている。限界の近いことを訴えるように、大きく幾度も震える先端が張りつめた。
「セ、フィロス。もう」
  無言で後ろに差し入れる指の動きは大胆に、指先も強く動かす。クラウドは小さく、途切れ途切れの声を幾度も上げ、唾液に濡れた唇を噛んだ瞬間、己を握り込んだ指の間から滴を溢れさせ、平らな白い腹の上に点々と零した。
  滴る体液に合わせて呼吸が止まり、再開した時には頬に涙が伝っていた。
「あの娘を殺めたのはお前のせいではないと云っても、分からないだろうな」
  速く上下する胸を撫でながら呟くと、クラウドは視線だけをゆっくりセフィロスへ向けた。
  全裸で前を汚したクラウドに対し、セフィロスは上着こそ脱いだものの、殆ど衣服も乱れていない。冷静な声と体温でクラウドにのし掛かり、汗に濡れた胸を撫でている。
「オレとあの娘は、どちらかしか生き残れなかった。娘もそれを知っていた」
「あんた、まさかそれで、オレを慰めてるつもりなのか?」
  クラウドが怒りを込めた声で問い、セフィロスはそれに思わず笑っていた。
「まさか」
  身体を起こしてシャツを脱ぎ、ベルトを外してパンツとブーツを取り去る。ようやくクラウドと同じ全裸になりながら、先程クラウドが使っていたタオルで腹に散った精液を拭った。
「慰めてほしいのか?」
  顔を背け、唇を噛みしめるクラウドは悔しそうな表情だけでなく全身で、ほんの少し口を割ったことを後悔しているらしい。
「オレは、あんたが彼女に謝るとも、そもそも反省したなんて欠片も思ってない。オレが彼女へ申し訳なく思ってるのは、こうやってあんたと一緒にいることだ」
「だが、お前はオレといることを選んだんだろう」
  クラウドは再び黙り込んだが、それは無言の肯定だった。
「オレがお前の頭を撫でて胸がすくとも思えん。ならばオレのやり方で、お前を慰めてやろう」
  低く笑い声を洩らし、仰向けのクラウドの身体を返して俯せにし、改めてベッドに抑え込んだ。

 腰を高く掲げ、足を大きく開いたあられもない格好に、クラウドは悲鳴のような声を堪え、ベッドカバーを噛みしめていた。
  セフィロスへ腰を捧げるように膝をつかせ、窪みを検分する。クラウドにとっては身体が再び高ぶっても消せない恥辱感と、物理的にも息苦しい姿勢だろう。顔は見えなくとも、セフィロスにその心境は想像がついた。
  複数の指で暴き、押し広げると内臓の赤い色がよく見えた。鮮やかな血の色がセフィロスを沸き立たせる。
  無意識に強く拒む入口が十分解けると、薬品と唾液に濡れて滑る場所は時折痙攣するように大きく動いて、隙間を埋めるものを待っているようだった。
  無音の、ベッドしかない寝室に荒げたクラウドの呼吸音だけが響いている。隠そうとしても、吐息ひとつが惜し気もなく快感も動揺も、もどかしささえも伝えてくる。
「どうされたい」
「もう、や」
「やめていいのか、このまま」
  息も絶え絶えでどうにか背後のセフィロスを振り返ったクラウドは、言葉とは裏腹に涙に濡れた顔を陶然としたものに変えていた。赤く火照った目元が妙に艶めかしく、無意識に何かを求めて腰を揺らす。生乾きの金色の髪は、淡く光を放つようにふわふわと毛先だけを泳がせ、剥き出しになった肩口を撫でている。
「慰めてほしいか」
  セフィロスの先程と同じ問いに、今度は幾度も頷いてみせた。
  がくがくと首を振り続け、それから背後に伸ばした手で己の狭間を開くように、白い尻を掴み、外側へと引いた。尖った指先が傷のない場所に食い込み、痛々しくも見える。
  足の付け根を支えるように引き寄せ、肉の薄い尻の狭間に先端を押し当てた。薬品の滑りを己の陰茎に擦りつけるうちに、セフィロスも堅く育つ。
  熱い楔の感触を待ちわびて立てたクラウドの膝が萎え、それでも来るもの迎え入れようと窪みが幾度も収縮した。もう一方の手で微弱な灯りに翳る谷間を曝け出し、身体を進めた。
「あ」
  半ばほどまで侵入させると、クラウドが歓喜もあらわな声を上げて上肢を反らせた。
  肉の薄い背骨が蛇のようにうねり、金の髪の中へ消えるその尾をのたうった。
「まだ全部入っていない」
  浅く前後させながら次第に奥まで突き入れる。目一杯に広がった窪みを巻き込むように沈み、少し引くと赤みのある縁を捲り上げる。汗が散るほど全身を震わせたクラウドが、口を大きく開けて息を吸い込み、吐き出した。
「もっと」
  皆まで云う前に、セフィロスは下腹がクラウドの尻に行き当たるまで突き、先端のみを残して大きく引く。引き出した陰茎はてらてらと光り、動きに支障を感じないほど濡れていた。幾度か大きく動くと、クラウドの前からシーツへ滴る音がした。
「いいか」
  無言で幾度も頷いたクラウドは、顔を伏せたまま、ただセフィロスの動きに一切抵抗せず揺さぶられた。
  動きに合わせて喉から溢れる喘ぎが高く、速くなり、突然抜いて浅いところを素早く出入りすると、今度は顎を反らせながら掠れた声でセフィロスを呼んだ。
  腰を上げていた両膝がついに頽れる。
  右足を跨ぎ、もう一方の脱力した足を抱き、しなやかに反る体を横向きに返す。挿入したままの楔が熱い内部を抉り、クラウドはその衝撃に鋭い声を上げた。
  大きく開いた足の間を責め始めると、身体が無意識に逃げようとベッドを掻いた。
  ベッドヘッドの方へずり上がろうとする動きを、足を引き戻すことで抑え込む。足を抱いた手にクラウドの指が掛かるが、引きはがすほどの力はない。
  そのまま動き続け、幾度か体重を掛けて深く、強く押し入る。抱えた腿が痙攣する。
  声もなく達したらしく、蛇口を開放したように前を溢れさせたクラウドは、呆けた顔で硬直した。長年共に生活していても、こうして手も触れずに射精することは多くない。
  セフィロスも足を抱えたままクラウドの背後に片手を突き、自分の快楽を追って動き続ける。クラウドはたがが外れたようにそのまま流れさせ、狼狽えた顔でのし掛かるセフィロスを見返した。
「や」
「お前が望むだけ、いくらでも」
  額を触れ合うほど間近で見つめ、荒くなる息を吐き出しながら、戦慄(わなな)く唇を吸い上げた。
「セフィロ、ス」
  濡れた睫毛の先が額をくすぐる。
  細長い印象の腕が後ろ手にセフィロスの頭を抱き、髪を梳り、引き寄せられた。
  続いて解放したセフィロスの滾りを、クラウドは収縮する身体の奥へ受け入れ、反らせたまっすぐな背から力が抜けた。冷え切っていた身体は指先まで血が通い、目元は上気して、胸には薄く汗も浮いている。
  クラウドの身体の上に散った髪を掻き上げて、弾んだ息を整えながら、セフィロスは羽化した蝶が縮んだ羽を伸ばす瞬間を見守るような気持ちで、目を開くクラウドを見下ろしていた。
  どんなに優位な状況で事を始め、身体を暴き、無体に蹂躙しているつもりでも、いつも最後はこうしてセフィロスの方が囚われているような気がする。
  肉体だけでなく、もっと根本的なところで、クラウドの選択に従っているのはセフィロスの方だった。
「お前は、あの娘の墓守にはならず、オレと共に生きることを選んだ」
  濡れた瞳がゆっくりセフィロスを見上げ、一度瞬いた。
「それが全てだ」
「そんなの、わかってる」
  未だ繋がったままの場所に指を這わせれば、顔をしかめるようにして背ける。
「でも今も時々、彼女に守られていると感じる。敵であるあんたの存在に怒りもせず、包み込む力を感じる」
  狭間を撫でる手を掴まれ、顔を上げたクラウドの視線に注意を引かれた。
「分からないとは言わせない。あんたも」
  意志の強い、抗う者を黙らせるだけの迫力を備えた瞳だ。
「謝罪なんて期待してない。墓に祈れなんて云うつもりもない。でも、あんたは知らなきゃいけない。あんたが刺した彼女が、あの場所に沈んでいるってことを、オレと一緒に覚えてなきゃいけない」
「覚えておけばいいのか」
「そうだ」
  一瞬燃え上がる炎のような気配を感じたが、瞬きした目を開いた途端それは消えていた。
「わかった」
「だから、今日は嫌だって云ったんだ」
  呆れた様子で溜息をついたクラウドを見下ろして、セフィロスは鼻で笑った。
「もうとっくに日付は変わっている」
  むっとした顔つきになったクラウドの、きつく締めつける場所を意地悪く突き上げた。
「セフィロス、あんたね」
  揺り動かされた中のものに、熱の籠もった溜息をつく。濡れた唇ごとその吐息を吸い取り、近くから覗き込んだ瞳はセフィロスをひたむきな視線で見つめ、苦笑に唇の端を上げる。もう一度髪を掴まれて後ろ手に引き寄せられ、互いの頬を押し当てる。
  悲しみのあまり勃起しないというならばともかく、両足を担いで正面からのし掛かると、クラウドは押し返すことなくセフィロスの肩を抱き寄せた。
「今日みたいな日でも、あんたに欲情する自分が嫌になるんだよ」
  どうも彼は普段から自分自身の身体を余り大事にしているとは思えなかったが、あらゆる場面で自らの意志を裏切る肉体が許せないらしい。
  吐き捨てるような告白ながら、正直な彼の言葉を妙に愛しく思い、動きに一層熱を込めた。
  下腹に触れる前を身体の間で擦り、小さく、骨の尖った尻を幾度も押し上げ、肩の上で揺れる足首を緩く噛んで愛撫する。指を滑らすたび、唇を動かすたび、きちんと反応していることが悪かろうはずがない。
  一度目の精液に濡れた内部は滑らかで、激しい挿入に音は激しくなる。粘ついた音が身体の間で上がるたび、その音にさえ煽られているクラウドの反応に、セフィロスも配っていた気を集中させる。
  背中へと回された白い手が肩胛骨を掴み、腰を撫で、蠢く腰を弱々しく掻く時、その脳裏からクラウドを抱く男以外の事は忘れ去っているだろうか。
  再び漏れる喘ぎと呼吸が、窓の外で風に揺れる梢よりも速くなるころには、東の空が白み始めていた。

 恐らくこの先、どんなに長い年月が過ぎようと、クラウドは罪の意識を忘れることはないだろう。
  普通の人間であれば時と共に記憶が薄れ、罪の意識も同じく失われていく。だが、彼自身がそう口にしたように、クラウドにとっての罪とは、セフィロスと共に生きることそのものだ。だからこそ彼は、責めて口を割らせるまでそれを明らかにはしなかった。
  セフィロスが共にそれを負ったところで、クラウドは変わらず苦しみ続ける。
  罪自身が、罪を軽くすることは出来ない。
  明けたばかりの朝陽が白く窓から差し込む。照らし出された白いシーツの上に横たわるクラウドの眠りは深い。緩やかに動く胸と、吐息の漏れる唇の赤みがなければ、死人と見間違(みまご)うほど静かな眠りだった。
  染みや黒子ひとつない肌の、所々に残る口づけの痕は出血のように痛々しく見えた。胸と首筋に残る痕を撫でてから、セフィロスはそれを隠すように毛布を首もとまで引き上げた。
  これまでのクラウドが、あの娘の墓参りへ来る度に抱えていた苦悩がほんの少し晴れただけで、よしとすべきなのか。
  死してもなおクラウドを縛る娘の存在に、セフィロスはあてのない苛立ちを覚えざるを得ない。とはいえ死人を引きずり出して嬲る趣味もない。セフィロスが何かすればそれだけクラウドは自分の罪の意識を募らせ、より一層苦しみ、悲しむだけだ。
  今は穏やかな寝息をつく唇に指先で触れ、起きる気配のない青年の髪を撫でた。
  指に絡みつく髪は、奔放な彼の髪型を裏切る柔らかさで、朝の陽を帯びて光輪のように光り輝いている。
  いつどこでだったか、野宿を逃れるために忍び込んだ古い教会で、娘の死を悼み、祈るクラウドの姿を思い出す。
  埃と砂にまみれた聖母の石膏像は、胸に抱く幼子を失い、何かの衝撃で欠けた頬の傷が涙のようにも見えた。天井の穴から差し込む陽光は光芒となって、朽ちた板床に膝をつき俯くクラウドの輝く髪と、翼を失った骨張った背を差し示していた。
  出会った頃は、まさしく彼自身が天の使いのような可憐な姿だった。大人になる前にその背にあった翼をもいだのはセフィロスだった。
  クラウドが言ったように、あの娘の気配を感じることがあるならば、それはいつもセフィロスの行動を非難するような気配だ。隣にいながら、クラウドを涙させることは許さない、と。
「娘を殺した時点でオレの敗北は決まっていたのか」
  自嘲を浮かべるセフィロスの目の前に、殺めた時と変わらぬ少女の姿が像を結んだ。明るい色の髪に柔らかい布のリボンをつけ、爽やかなコーラルピンクのスカートの裾が翻る。いたずらげに笑って、ベッドに眠るクラウドに近寄り、屈み込んで白い頬に優しく口づけを落とし、上げた顔をセフィロスへ据えた。
  整った顔立ちに長い栗色の巻き毛が柔らかい印象を与え、艶のある小さな唇が何かを告げる形に動く。
「分かっている」
  ベッドに片肘をついて横たわったまま、セフィロスは幻影へ答え、追い払うように手を振った。薄い像は瞬時に朝陽に透けて、何の気も残さずに消滅した。
  突然スイッチを入れたように外の森から鳥たちの声がうるさいほど響き、静寂はうち破られた。
  目の前の光景がセフィロスの妄想なのか、それとも本当に娘の思念が形を取ったものなのかは分からない。
  未だ起きる気配のないクラウドへ、一時でも安らぎを与えるために、セフィロスは一寸も動かず、ただ彼の寝顔を見つめ続けた。

 

ダーカー・ザン・ブラック(了)
2010.03.29
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