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復活の日

 金属の落ちる乾いた音で目を開けると、男は瓦礫の中にいた。
 草や低い木が時折地面から顔を出す様子から、ここがミッドガルの廃墟の打ち捨てられた区画であると分かる。
 頬をつけていた地面から身を起こせば、身体上に乗っていたらしい破片がばらばらと落ちた。土の匂いと錆びた鉄の匂いが入り交じって、噎せ返るほどだ。
 所々擦り切れたグローブの手で、コートを払う。丁度右手があった辺りに刀が落ちていた。どんな状況でも刀にしがみついているのは、もう反射運動というしかない。自嘲の笑みを浮かべかけて、漸くここに至るまでの出来事を思い出した。
 あの戦闘の後、ここに落下したのだろうか。
 青年の剣を受けて、あのコピーの身体から引き剥がされたのに、自分の身体がここに存在するのも不可解だった。受けた傷はもう瘡蓋さえ残っていない。戦いの後の高揚感だけがくすぶるように身体の奥で燃えていた。
 だが青年の方は無傷ではないはずだった。
 彼が左胸に銃弾を受けた熱さを、男は意識の端で共有したのだ。
 周囲に彼が居る気配は感じられない。まだ完全に自失していれば、男の知覚でも感じ取るのは難しい。
 目を閉じ、視覚を遮断して集中すると、瓦礫に潜む小動物の息づかいに混じってヒトらしきものを感じ取れた。
 そう遠くないようだった。
 瓦礫を乗り越え、かき分けて廃墟の中を進む。男の気配に獣たちが下草を蹴って逃げ、大きなはばたきで茶色の鳥が飛び立っていく。だが近寄るほどに彼の気配は鮮明になり、目を瞑っていても辿り着ける気さえした。
 倒れたままの建物の壁面を登り続けると、元は屋上だったのだろう床が、二十メートルほどの傾斜になっていた。その麓あたり、茂った下草の上に金髪の頭が見えた。剣の柄を握りしめたまま腕を投げ出し、仰向けに倒れている。
 よく見れば剥き出しの腕や顔に小さな傷が無数についていた。爆風を受けたような煤で額や頬が黒く汚れている。
 男は躊躇なく傾斜を滑り降りて彼の傍へ歩み寄り、屈み込んだ。そして汚れた顔を指先で拭い、無意識にその傷を治癒させようと魔法の詠唱を始めたことに、男自身が少し驚きを感じていた。
 マテリアは所持していないのに魔法は発動した。指先の熱を分け与えるように傷に滑らせれば、薄赤い跡だけを残して傷口が塞がる。背中から胸に貫通した傷は地面に小さな血溜りを作っていたが、前あきのファスナーを開けて、直接傷に手を押し当てる。少し時間を掛ければそれも塞がった。
 そして自分は何がしたいのだろうかと、男はまた考え始めた。
 最初に心に浮かぶ欲求は、破壊と戦いの衝動だった。自分自身の手で育て、手を離れた間にも強くなり、一度ならず男に一時的な死を与えた彼と。
 実際神にさえなりかけた男を死に至らしめるのは、もうこの世界に彼しかいない。己自身が最も嫌悪し破壊したかった男を倒すのは、彼以外にはありえない。
 だから意識せず傷を癒そうとするのか。再び戦う為に。
 一方で対立する以前に、彼とはもっと違った繋がりを持っていたはずだった。
 慈しむこと、愛することの幸福感や、与えられ、与えることの快楽を男は彼と分かち合っていたはずだ。
 まだ意識の戻らない青年の顔を見つめるほどに、男は余計に分からなくなった。
 傷が消えた滑らかな額に落ちかかる髪を、指で払いのける。長い睫毛が頬に落とす影に覚えるこの暖かい感情はなんだったか。
 薄い色づきの唇には治し損ねた傷があり、ほんの少し血が滲んで乾きかけている。身をかがめて舐め取れば微かに鉄の味がした。その唇の柔らかさを、彼の血の味を、男は確かに記憶していた。
 そのまま唇をそっと噛み、同時に背筋を這い登る衝動に任せて、隙間から舌を差し入れた。内腑を思わせる口内の柔らかく濡れた感触に昂揚を禁じ得ない。彼の舌をさぐって吸い上げ、両手はその身体を抱き締めていた。
 破り取ってしまいたい勢いを殺し、上衣のファスナーを下まで下げ、邪魔なベルトと一緒に引き上げる。下着ごとパンツを剥ぎ取り、片足だけ抜き取った。露わになった身体は最初に抱いた時よりも成長し、最後に会った時よりも肉が削げ、鋭利になっている。長く伸びた足も毛は薄いままだが、股間の繁みは髪と同じ淡い金でしっかりと覆われて、陰茎も大人の形になった。腰や太股の子供っぽい丸みや脆弱さはもうない、男の姿だった。
 細く締まった足首を掴んで足を開かせ、狭間を覗き込む。行為に反して色気のかけらもない検分する仕草である。
 昔幾度も割り開き、一度は狂気の中で壊すほど犯した場所は、記憶とさほど違いはないようだ。今は完全に閉じたそこも、男が時間をかけて解かせれば、内臓の色さえ窺わせる。
 血と同じ赤い、美しい色を。
「早く目を醒ませ」
 腿の間に膝を置き、正面から彼を抱き起こす。自失して仰け反る首が無防備に晒されて、食いちぎってしまいたい衝動を感じた。
 食欲とも性欲ともつかない、だが抗い難い。
 男は、久々に無抵抗の獲物を目の前にした肉食獣が、まさに飛びかからんと後ろ足に力を溜め、だらだらと涎を流す様を己に重ね合わせた。
 なぜその足を踏み出さないのかと問われれば、自分を倒すのは彼しかいない、ならば自分が彼を殺してしまっては、元も子もないからだ。
 そのストレスが、彼と身体を重ね合わせたいという欲求に繋がるのだろうか。
 思えば性交による絶頂は、死の瞬間に似ている。彼によって与えられる最期、自分が与える彼の最期をその目で確かめることが出来る。
 グローブの指先を口にくわえて外し、体温を感じる唇と口腔を探り、濡れたその指で今度は尻の狭間に触れた。
 暖かい粘膜を指先で感じ取る。
 男の望む、ささやかな死を与えるふたつの器官が愛おしかった。
「でないと、殺してしまうぞ。クラウド」
 彼は目を開く気配はなかった。



 そのまま味わっていたいような快感と、微かな痛みと共に揺り起こされて、クラウドは重たい瞼を上げた。
 痛みの元は背中の固い地面でもなく、胸元にある。怪我をしたかと無意識に巡らせた左胸に傷はなく、代わりに忘れるはずもない男の顔が覆い被さり、長い鋼色の髪が散らばっていた。
 咄嗟に退けさせようとその髪を掴んで引くと、舌と唇で執拗に乳首をなぶっていた男は、上目遣いにクラウドを窺い見た。閃く青緑色の双眼は、射殺す視線でクラウドの声を封じた。喉の奥がからからに乾いて、端から声を発することはできなかった。
 その状況に混乱していたクラウドは、男の唇が与える感触に翻弄されながら、これまでの顛末を思い返す。
 街を破壊するほどの戦い、最期の一瞬、自分も男も今度こそ死んだと思った。背後から撃ち抜かれた胸の燃えるような熱さ、最後の力でコピーの二人に剣を振り下ろしたところで意識を飛ばした。夢の中で失ったはずの少女と友に出会い、その指先が己の帰る方向を示した気がした。
 だが今、ここがあの世でない限り生きていたのかと安堵すると同時に、再び男から解き放たれはしないのだという絶望も感じる。しかもその彼が、クラウドを半裸に剥き、今まさに犯そうとしている事実に、弛緩していた四肢が力を取り戻した。
 片手で掴んだ髪を更に引く。もう片方で男の肩を押しのけようとすると、彼はクラウドの小さな乳首に歯を立てたまま唇の端を吊り上げ、笑った。
 意識のない間もどれだけそうされていたのか、薄い色の乳輪から歯の間に挟まれたそこが真っ赤に腫れ上がっている。男の唇には血が滲み、痛みの原因はそれだったらしいと思い至る。
「セフィ、ロス」
 更に強く歯を立てられ、クラウドは痛みに顔を歪めた。ぷつりと弾けるような感触がして、胸の先が熱くなる。首の方へ血が一筋流れ落ちた。
 そこを噛み切られたのだ。
「目覚めるのを、待っていた」
 漸く唇を離したセフィロスはそう呟き、鎖骨のあたりまで伝う血を舌で追う。噛み切られた乳首は、先端の肉を薄く失って、わずかに陥没している様に見えた。
「無抵抗の死体を喰う趣味はないんでな」
 笑ったのか、吐息が首筋にかかりクラウドは身をすくめる。
 幼いころそうしてクラウドを抱いた同じ男のはずなのに、彼はやはり『セフィロス』だった。身勝手な主張も、残虐さも、二年前と何一つ変わらない。
 幾度もクラウドの幻想に現れた男は、やはり幻想でしかなかったのか。自分と同じように寂しさも人恋しさも垣間見せる愛しい男は、クラウドの想像の産物に過ぎなかったのか。三つに分かれた彼の分身は、あれほど昔のセフィロスをよく映していたのに。
 萎えかけた腕の力だけでは押し返せないとわかって、クラウドは男の下肢を蹴り退けようと足を持ち上げたが、心さえ読むようにその足首を捕らえられる。
 衣服だけでなくブーツまで取り去られた己の素足を見て、クラウドは一瞬血の気が引き、同時に足の間にある自分が熱く高ぶっていることに気付いた。
「お前も、この一瞬の死が欲しいのだろう」
 誘うように囁かれた声に、背筋を快感が這い昇る。意識のないうちに慣らされていたのか、男の長い指を抵抗なく狭間に差し入れられ、囚われた足首が震えた。
 痛みさえ、この男は快楽に変え、クラウドを生きたまま地獄へ引きずり下ろそうとする。
「…悪魔、め……」
「オレが欲しいと思うのだから、お前もそうでないはずがない。これはオレとお前の本能だからな」
 僅かな抵抗で握りしめていた髪から手を離すと、セフィロスは一旦上肢を起こし、クラウドの腰を抱えなおした。殆ど乱れていない服の前立てだけを解き、取り出した陰茎を押しつけられる。無意識に腰が浮き、指に代わって入り込んできたものの感触に、クラウドは掠れた声を吐き、首を仰け反らせた。
 そして男は、クラウドを縛る呪文を口にした。
「いい子だ」


 時折、薄く開いた唇から漏れる吐息がセフィロスの首筋にかかる。離すまいと力の篭る腕に抱き寄せられて、肩口に埋めた顔は見えないが、密着している分震えは顕著に伝わった。
 突き上げては動きを止め、休んでは彼が動き、随分長い間そうして繋がっているのに、まだどちらも一度も達していなかった。
 彼は昔の様に高い声は上げない。だが押し殺して震えを帯びた吐息が鼻から抜ける音の方が、幼い嬌声よりもずっと男を煽った。
 汗に濡れた背を撫で下ろし、そのまま繋がる部分まで指を這わせれば、抗議するような唸り声が漏れ、首の根元に歯が突き立った。後ろに回された指が、爪を食い込ませて男の背を痛めつけた。
 嫌がるのを承知でそのまま縁を指先で撫で続けると、意外にも彼は向かい合わせに跨いだ男の上で、自ら上下に動いて激しく貪ってくる。恍惚とした目の光や、唾液に濡れる唇を舐める舌が、彼が理性を手放しつつある証拠でもあった。
「必死だな。憎しみを忘れるほど、気持ちがいいか?」
 皮肉を込めて囁いても、彼は聞こえているのかいないのか、行為は止めず、乱れた息だけを漏らし続ける。しがみついていた手を片方離して、セフィロスの腿について身体を浮かし、更に激しく動こうとする。
 すぐにも昇り詰めてしまいそうな刺激に眉を顰め、腰を捕らえて止めさせた。
「聞いているのか」
「うるさい」
 口答えに腹を立てて、遠慮ない力で顎を掴んで顔を向けさせれば、彼は勝ち誇った様な笑みを浮かべている。
「あんたの方こそ、オレの中が、好きでしようがないくせに」
 意図して締め付ける縁がセフィロスを拘束し、抜き出そうと彼が動くと微かに痛みが走った。
「小癪な物言いをするようになったな」
 クラウドの身体にまとわりつくベルトを避けて背に手を回し、繋がったまま地面に組み伏せる。両方の足首を掴んで開き、意趣返しに数度強く突き上げると、彼は息を飲んで腿を震わせ、大人しくなった。
 こうしていると、繋がっている場所が良く見える。蕾のような周囲の皺は完全に伸びて、目一杯にセフィロスのものを受け入れていた。静かに腰を引くと擦れて赤くなった縁が捲れ上がり、セフィロスを引き留めようとする。
 あの記憶にある赤い色が見たくなって、一度完全に抜ききれば、みずみずしい果物のような尻の奥に、血の色の内臓が僅かに窺えた。
 セフィロスの唇に笑みが上った。
「そうだな。お前の中の色は美しい」
 舌で味わってみたい気もしたが、もう一度抜いた陰茎を押し込み、身体を重ね合わせた。
 近寄せた顔を間近で見つめ、残虐な衝動と抱き締めて愛でたい衝動を戦わせながら、柔らかな唇を吸う。
「腹を割いて、引きずり出したらもっと美しかろう」
 何を思ったのか埋め込んだ場所がぎゅっと締まった。
「やればいい。楽に、なれる」
 見下ろす顔には、セフィロスのものにも負けないほど嬉し気な笑顔がある。
「早く。やれよ」
「楽になどしてやるものか」
 白い額から髪をかき上げ、そのまま頭ごと掴んで固定し乱雑に動かす。
 息を飲む小さな悲鳴と、急激に高まる身体をもてあます困惑の声、必死な荒い呼吸はやはり今際のきわのそれと同じだ。
「やっと、忘れられると、思ったのに」
「思い出にはさせんと言ったろう。裏切り者にはペナルティが必要だ」
 クラウドは答えず、押し上げる動きに合わせて小さな高い声を断続して漏らす。身体の間にある陰茎には意図して触れてもいないのに、小刻みに反応して終わりが近いことを訴えた。
「こうやって、女のように犯したお前の身を、町の中心に捨ててやろうか」
 歯を食いしばり、鋭利に尖った顎を震わせる様子に、目の奥が燃えるような衝撃を受けた。思い通りにならないことへの怒りか、ただ目の前の彼を征服したいという欲求か。
「あんた、は、一体、何が欲しい…?」
 かろうじて聞き取れた問いに、乱暴に揺すっていた動きを止めれば荒くなった二人の息だけが物音になった。
「オレだけに選ばせるな。あんたが、選べ」
 ずっと仇を見る目で見つめ合っていた彼の大きな瞳が揺れる。
「――黙れ」
「選べよ!」
 黙らせようと、細い首に指を絡めた。
 握り取れてしまいそうな繊細な首筋に指先が食い込み、脈打つ音が掌全体に伝わった。
 吸い込めない空気を求めて全身を硬直させ、体内に迎え入れたセフィロスをきつく締め付ける。その瞬間クラウドは自身の腹に吐精した。
 硬直した身体の奥を引き裂くように強引に動き、セフィロスもまた長い性交を終わらせる。
 臓腑の暖かさを堪能するように精を吐ききって、ゆっくりと指の力を抜けば、酸欠で紅潮したクラウドは青くなった唇を喘がせ、悲鳴のような音を立てて空気を吸い込んだ。
 滲んだ涙が両方の目尻からこめかみに流れ落ちる。
 そして漸く赤みを取り戻し、未だ震える唇から、絞り出すように声を発した。
「オレ以外を、選んだら……殺してやる」
 伸ばされた片手の指が、覆い被さるセフィロスの首に弱々しく絡み、そのまま糸が切れたように地面に落ちる。
「クラウド」
 呼びかけても、彼は気を失ったのか眠ったのか、もう答えなかった。

「バカな子供だ。お前の帰る場所を破壊して、大切だと思うもの全てを奪い取っても、お前が本当にオレだけのものになったことなど――あるものか」
 子供と呼んだ彼はもう、子供らしいところなど残っていない。
 男の知らない場所で、強く大きく成長したその身と精神は、男がそれ以外のもの全てを捨て去らねばもう、己がものにはならないのだろうか。



 『どこへ連れていけばいい?』
 耳元に響く声は忘れるはずがない者であるのに、クラウドにはそれの名が思い出せない。だが四肢の力も瞼を上げて確認する力もなく、運ばれる感触に任せたままだ。
「……教、会」
『なぜ』
「今の、オレの家だから」
『そうか』

 感覚は途切れ途切れで時間の経過も分からなくなっているらしく、再び少しだけ意識が戻った時には、慣れた花の香りがする建物の中だった。
 体温を感じる大きな胸、安心感のある腕に抱えられ、降りかかる雨のような髪が頬に幾度も触れる。
『あの娘の気配がする』
「うん」
 薄目を開けて周囲を窺おうとすると、割れたステンドグラスから差し込む光が眩しく、開くことは叶わなかった。
 固い床の上に敷いた毛布に下ろされて、冷たい指先が額に降りた髪をかき上げた。
『オレは行くぞ』
「どこ、へ」
『どこだろうな。この虚ろな肉体では出歩けない。暫く身を潜めるとするさ』
 額に指先と同じ温度の唇が触れ、目尻まで降りたそれは名残惜しげに離れていった。
「い、やだ」
『また剣を向けたくなる』
「それでも、いい」
『寂しいのか? お前には、他に仲間も居よう』
「あんたは」
 必死に開いた細い視界に、髪の長い男の影が見える。
 背後から陽光受ける様はまるで、この教会に祀られた神の姿のように見えなくもない。
「あんたは、ひとりで?」
 笑う気配が横たわるクラウドに降りかった。
『一人ではないさ』
 刀を持つ形に硬くなった指先が、亡き少女の形見を巻いたクラウドの左腕を撫で、肘を辿り掌を、指を掴んで静かに解放する。

「オレは、いつでもお前の側にいる」

 もう一度髪が撫でられ、気配は靴がきしむ床を踏みしめる音と共に離れていった。

05.09.10(了)
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